第63話

消失⑤
5,311
2019/04/07 12:25


「はぁ、みんなすぐ僕を利用しようとするんだよね。仕事をネタにして誘ってきたり。それって脅迫に近いと思わない?」
 冗談めいて笑うユウ。それに対して私も、
「そうだね」
 と言って苦笑した。
「僕は杏奈以外興味ないのにさ。あ、それよりさ、今度美味しいカフェ見つけたんだ。杏奈ぜったいに気にいると思うんだ」
「え、本当に? 行く行く。ユウって、色んな場所知ってるよね。すごいな」
「だって、杏奈に喜んでもらいたいからさ」
 ニコニコと笑うユウ。平然とそんなことを言ってくれるから嬉しい。
「ありがとう」
「恋人なんだから当然じゃない。それに杏奈は僕を利用しようとしないし」
 彼は私を信じてくれている。
「うん」
 それに対して、私は笑顔を貼り付ける。けれど、心中は罪悪感でいっぱいだった。だって違うから。
 ほんとは私もおなじ。ユウを利用していたのはほかでもない。私だったから。欲にまみれた哀れな自分。どんな咎めも受ける。だから、ユウを私に返してーー。
 …………ユウ……。逢いたいよ。どこにいるの? 眠れないよ。無事なの?

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