────2019年、6月某日。
あるオフの日の早朝。みんなで朝食を摂るべく、宿舎一階のラウンジに2、3人ほど集まっていたところを、急にドカドカと乱入してきたのは──メンバーで一番図体のデカいグループのリーダー、ユレだった。
そう言いながら、其処にいる「兄弟」達にユレが見せてきたのは、タブレットの液晶画面。そこにはエンタメニュースの記事が表示されており、こんな見出しが書かれていた。
『E. E. Sのミョンバル、蚕室のショッピングモールにて、美女と手を繋ぎラブラブデート!フードコートでディナーを終えた二人はキスを交わし、夜の街並みに消えた…』
目をかっ開いて、必死に主張するユレ。いつも以上に声がデカくて、鼓膜が悲鳴を上げる。運悪く、彼の近くにいたテベクとウンスは、顔を顰めて耳を塞いだ。
そんなこんなでガヤガヤと騒いでいると、再び扉の開く音がした。
凛と響く、冷たくも艶のある声。新たに入ってきたのは、メンバーの紅一点・ジュセだ。
ユレは彼女を視界に捉えるや否や、半べそをかきながら飛びついて来た。
テベクがユレから借りたタブレットを見せる。其処には先程の記事と写真。ミョンバルと例の女性は、明らかに手を繋ぎ、仲睦まじい様子で写っている。ジュセはまじまじとそれを視認すると、こう訊いた。
ミョンバルが目を覚ました直後に、部屋に入ってきた「弟妹」達。いつも寝起きは必ず低血圧の彼は、当然ながら顰めっ面で彼等を睨んだ。しかしジュセは彼の不機嫌な様子など存外気にせず、彼の前に出て言った。
ジュセがスマホを差し出し、先程のニュースサイトのゴシップ記事を見せる。するとミョンバルは頭を抱え、深い溜め息を一つ吐いた。
今度はジュセが、溜め息を一つ吐いた。
ジュセはそこまで言うと、踵を返した。直後、ユレがミョンバルに対し、何か喧しいことを言い始めたようだが、どうせ下らないことなので、そのままスルーする。
そして、一番後ろで俯いて黙り込んでいる、ミントグリーンの髪色をした男──ソハンに、小声でこう告げた。
その夜、二人は梨泰院にある、会員制のレストランにいた。完全個室なので、本音を打ち明けるには持って来いの場所だ。
幾千にも浮き上がるハイボールの泡沫を眺めながら、ソハンはそう呟いた。
乾いた笑みを浮かべ、琥珀色のそれを一口呷る。そんな彼の様子に、ジュセは言った。
ソハンの目に熱がこもり、忽ち涙が溢れる。それは留まるところを知らず、ぼたぼたと流れ落ち、木製のテーブルの上に染みを作っていく。
嗚咽し、震える彼の肩に、ジュセはそっと手を乗せた。
《fin.》
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。