第3話

もう恋なんて、きっとしない
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2023/08/20 22:55
 ────2019年、6月某日。

唯雷(ユレ)
おいおいおいみんなぁ!!見ろよこれぇ!!
 あるオフの日の早朝。みんなで朝食を摂るべく、宿舎一階のラウンジに2、3人ほど集まっていたところを、急にドカドカと乱入してきたのは──メンバーで一番図体のデカいグループのリーダー、ユレだった。
霄漢(ソハン)
…………あ、おはようユレヤ
太白(テベク)
おはようございます。
一体どうしたんですか、ユレヒョン
唯雷(ユレ)
見れば分かる!!見れば!!
 そう言いながら、其処にいる「兄弟」達にユレが見せてきたのは、タブレットの液晶画面。そこにはエンタメニュースの記事が表示されており、こんな見出しが書かれていた。
『E. E. Sのミョンバル、蚕室チャムシルのショッピングモールにて、美女と手を繋ぎラブラブデート!フードコートでディナーを終えた二人はキスを交わし、夜の街並みに消えた…』

銀洙(ウンス)
え、えーと…つまり、バリヒョンがパパラッチされたと…
唯雷(ユレ)
そうなんだよ!!そうなんだけどさ!!普段から女の気配が一ミリもなさそうな!!あの仏頂面で朴念仁のバリヒョンが!!彼女!!彼女だぞ!?
 目をかっ開いて、必死に主張するユレ。いつも以上に声がデカくて、鼓膜が悲鳴を上げる。運悪く、彼の近くにいたテベクとウンスは、顔を顰めて耳を塞いだ。
太白(テベク)
吃驚するのは分かりますけどぉ、騒ぎ過ぎですよぉユレヒョン〜…
銀洙(ウンス)
そうですよ、みんな言わないだけで恋人持ちのアイドルなんて、ごまんといるでしょ?
そんな大したアレでは…
唯雷(ユレ)
一・大・事なんだよ!!俺にとっては!!
チクショー!!恋愛経験は俺の方が上な筈なのに!!バリヒョンの分際でぇ!!
太白(テベク)
あ、そっち?
銀洙(ウンス)
未だ童貞なのに?
唯雷(ユレ)
黙らっしゃいスヤ!!事実だけど!!
霄漢(ソハン)
…………
銀洙(ウンス)
どうしたんですか、ソハニヒョン
霄漢(ソハン)
っ…何でもないよ、ウンスヤ
 そんなこんなでガヤガヤと騒いでいると、再び扉の開く音がした。
珠世(ジュセ)
おはようございます。そして煩い
 凛と響く、冷たくも艶のある声。新たに入ってきたのは、メンバーの紅一点・ジュセだ。

 ユレは彼女を視界に捉えるや否や、半べそをかきながら飛びついて来た。
唯雷(ユレ)
ジュセヤぁ〜!!頼む!!俺の彼女になってくれよぉ〜!!バリヒョンに対抗するためにもぉ!!
珠世(ジュセ)
厭です。それよりもそのパンツ一丁状態を何とかして下さい。ダサいウザいキモいの三重苦でこっちの目が腐るので。さもなくば去勢して下さい
唯雷(ユレ)
辛辣っ!!
珠世(ジュセ)
それよりも何が…
太白(テベク)
ああ、それなんだけど…
ミョンバリヒョン、彼女いたっぽくて…
珠世(ジュセ)
彼女…………ソースは?
太白(テベク)
こ、これ…
 テベクがユレから借りたタブレットを見せる。其処には先程の記事と写真。ミョンバルと例の女性は、明らかに手を繋ぎ、仲睦まじい様子で写っている。ジュセはまじまじとそれを視認すると、こう訊いた。
珠世(ジュセ)
…当の本人は?
太白(テベク)
まだ寝てるよ。時間も時間だし、そろそろ起こそうかと…
珠世(ジュセ)
…………さっさと起こして、事実確認ね
溟渤(ミョンバル)
一体何なんだよお前ら…………
揃いも揃って俺の部屋に…………
 ミョンバルが目を覚ました直後に、部屋に入ってきた「弟妹」達。いつも寝起きは必ず低血圧の彼は、当然ながら顰めっ面で彼等を睨んだ。しかしジュセは彼の不機嫌な様子など存外気にせず、彼の前に出て言った。
珠世(ジュセ)
ぐだぐだ説明するのもあれなんで、単刀直入に訊きますね。これ、バリオッパで間違いありませんよね?
 ジュセがスマホを差し出し、先程のニュースサイトのゴシップ記事を見せる。するとミョンバルは頭を抱え、深い溜め息を一つ吐いた。
溟渤(ミョンバル)
撮られてたのかよ…………ったく
珠世(ジュセ)
オッパなんですね。じゃあ隣の人は…
溟渤(ミョンバル)
…………俺の元カノ、だった奴だ。ちょっと前に、よりを戻すことになってな
珠世(ジュセ)
つまり…………再び付き合い始めた、と
溟渤(ミョンバル)
…………ああ。次こそは、失敗したくねぇな
珠世(ジュセ)
そうですか…………って、そういうことじゃないでしょう、オッパ?
 今度はジュセが、溜め息を一つ吐いた。
珠世(ジュセ)
アイドルも生身の人間ですから、そりゃあ恋人もいて当然だということは、あたしもみんなも承知しています。大半のオールツ達も、その辺は理解しているとは思います。
でも、それを許さないイカれた輩も、この世界にはごまんといるんですよ?貴方は勿論、貴方の恋人も、場合によってはそうした野郎共から逆恨みされて、狙われるかもしれない
溟渤(ミョンバル)
…………
珠世(ジュセ)
まぁ、うちの場合はタラシのユレオッパがメディアをしょっちゅう賑わせてますから、そんな大事にはならないとは思います
唯雷(ユレ)
え、俺スケープゴート!?
珠世(ジュセ)
ヘタレ童貞巨人は黙って下さい。
まぁそれでも今後、世間の反応によっては、バリオッパからちゃんとした説明が必要になると思って下さい。事務所もある程度は助けてくれるでしょうけれど…
溟渤(ミョンバル)
…………善処する
珠世(ジュセ)
じゃあ、この話は終いで。ファニオッパがそろそろ朝ご飯を作ってくれていると思いますので、バリオッパもそろそろ着替えてラウンジに来て下さい。
あとヒョギオッパを叩き起こさないと…………
 ジュセはそこまで言うと、踵を返した。直後、ユレがミョンバルに対し、何か喧しいことを言い始めたようだが、どうせ下らないことなので、そのままスルーする。

 そして、一番後ろで俯いて黙り込んでいる、ミントグリーンの髪色をした男──ソハンに、小声でこう告げた。
珠世(ジュセ)
…ソハニオッパ。今晩、付き合ってあげるわ
 その夜、二人は梨泰院イテウォンにある、会員制のレストランにいた。完全個室なので、本音を打ち明けるには持って来いの場所だ。
霄漢(ソハン)
…………まぁ、分かっていたことなんだけどね
 幾千にも浮き上がるハイボールの泡沫を眺めながら、ソハンはそう呟いた。
霄漢(ソハン)
確かに彼に対しては一目惚れで、好きだったけど──永遠に叶わぬ恋だとも、何処かで思っていたから。ゲイの僕は、そもそもヘテロの彼とは釣り合わない。だから大したことなんかでは、ないんだよ
 乾いた笑みを浮かべ、琥珀色のそれを一口呷る。そんな彼の様子に、ジュセは言った。
珠世(ジュセ)
本当にその人を好きだったという気持ちを、過小評価するものではないわよ、オッパ
霄漢(ソハン)
ジュセヤ…………
珠世(ジュセ)
あたしは恋愛なんてしたことがないから、アレだけど…………男とか女とか、ホモとかヘテロとか関係なく、誰かを愛する気持ちと、誰かを愛した事実は、オッパ自身が認めてあげるべきだと思うわ。幸せだったし、辛かったんでしょう?
霄漢(ソハン)
…………っ、ふ
 ソハンの目に熱がこもり、忽ち涙が溢れる。それは留まるところを知らず、ぼたぼたと流れ落ち、木製のテーブルの上に染みを作っていく。

 嗚咽し、震える彼の肩に、ジュセはそっと手を乗せた。
珠世(ジュセ)
あたしが男だったら、オッパと付き合ってやっても良かったんだけどね。だけど生憎そうじゃないから…………オッパのことをちゃんと分かってくれて、愛してくれるひと、将来見つかると良いわね



《fin.》

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