風とほのかなりんごの匂いと共にライアーと詩の歌声が聞こえてくる。
ここはハーツラビュル寮の庭だ。
ライアーを奏でながらウェンティは木の下にいる少年に声をかける
「そういう問題じゃないっ!」とリドルはウェンティを見上げながら怒る。
ウェンティはハーツラビュル寮の庭を気に入っているようだ。景色が好きなのか人が好きなのか、ただよってくるお菓子の匂いが好きなのか_
気に入っている理由は分からないが、ほとんどの人は皆が口を揃えて、
「彼は自由だから仕方ない」
と言う。が、ハーツラビュル寮長、リドル・ローズハートは規律が体を持ったような人物だ。リドルはウェンティの自由を良く思わない。
そのためウェンティとリドルの言い合いは今では日常茶飯事となった。
ウェンティは風のような人物だ。風のように穏やかで、逃げ足がとても速くすぐ消えてしまう。
毎日のように繰り広げられるリドルの一方的な喧嘩は、毎回ウェンティに逃げられて終わる。
「喧嘩」とは言ったものだが、トレイをはじめ寮生は誰も喧嘩を止めようとしない。
リドルとウェンティの喧嘩は寮生達から見たら夫婦喧嘩や親子喧嘩のようなものである。
_お互いをわかった上で喧嘩している
と寮生達は思っている。もちろんトレイやケイト達もだ。
リドルとウェンティは特段仲がいいわけでも無いし、一緒に居る歴が長いわけでもない。ましてや家族でも無い。
でも彼らはお互いが嫌いでは無いのだ。
口ではこう言っているがトレイは知っている。
ウェンティと話している時のリドルに笑みはないが、とても楽しそうな雰囲気がただよっている事を。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。