リビングには昼の光がだらりと伸びていた。
カーテン越しに差し込む陽差しが 、床を照らし時間がゆっくりと溶けている様に見える。
任務組が外に出ているせいかアジト全体がいつもより静かだった。
なつはソファの端に浅く腰掛け 、膝の上で両手を組んでいた。
背筋は無意識に伸ばし線は定まらない。
何かをしているわけでも、休めているわけでもない。
何をしていいのかわからない暇な時間。
それはまだ慣れない感覚だった。
明るく気の抜けた声が静かな空間に転がった。
顔を上げるとこさめがゲーム機を片手に気楽そうに立っていた。
反射的に否定してしまった。
理由は自分にもわからないようだった。
“ 暇だ ”と認めることがどこか怖かったからだと思う。
意味がわからずなつは一回固まる。
それなのにこさめは説明する気もなくテレビの前へ座り、
電源をつけコントローラーを二つ置いた。
動作は一つ一つ大雑把で雑なのに不思議と周囲を急かす感じがない。
なつはわずかに視線を泳がせる。
答えを探すように、手元と画面を交互に見る。
昔の記憶を辿ったが、掴み出した答えは知ったかぶりだった。
正直になつがそういう時、こさめは一瞬間を置いてから
目を見開いて吹き出した。
条件反射のように謝るとこさめはすぐに首を振って否定した。
そして軽く、はっきりとそう言った。
その言い方は妙に軽くて冗談みたいなのに
押し付けがましさがなかった。
その事実に気づいた瞬間なつの肩からほんの少し力が抜ける。
ゲームは対戦形式だった。
画面の中でキャラクターが派手に跳び攻撃を繰り出す。
音と色が一気に増えてなつは少し、いやかなり圧倒される、
こさめは横から覗き込まず、なつの手元にも触れない。
きちんと距離を保ったまま画面だけを指差して説明する。
なつはコントローラーを両手でぎこちなく握った。
力の入れ方がわからず、親指が不自然に固まる。
数秒後、静かになったと思ったら
画面に映るなつのキャラクターが声を上げて落下した。
あまりにも綺麗に自爆した様にこさめは内心とても笑そうだったが
心を無にして我慢した。
なつは画面を見つめたまま動けなくなる。
自分のキャラクターが消えた後をただ見つめるだけ。
ぽつりと零れた本音、その声色には諦めが混じっていた。
するとこさめはあっさりと笑った。
その言葉に、なつは少し驚いて目を見開く。
笑い声がリビングに転がる。
その音につられるようになつの口元がほんの少しだけ緩んだ。
もう一戦、今度は指の動きがわずかに安定している。
褒められた瞬間、なむら思わず動きを止めた。
嘘を含まない声だった。
馬鹿にしない。無理に距離を詰めても来ない。
ボケるけど、ちゃんと見てくれている人だ。
なつはそう思った。敬語のまま話し始める。
また笑う。その笑いを聞きながらなつは思う。
まだ全ては信じられないけれど、
それでもここに来て初めて“ 誰かと一緒に遊ぶ時間 ”が怖くなかった。
画面の中で自分のキャラクターがまた落ちた。
それだけの短い一言が、なつの胸に小さくなかった。
気づいたら、笑ってた。
正直フレンドリーなこさめでさえ、
なつにどう接したらいいのかがわからなかった。
静かで、固くて、触ったら壊れそうにこさめには見えたからだ
ゲームをしようと言ったのも、別に深い理由があったわけではない。
この空気が重いなとこさめが感じて、偶々声に出しただけだった。
そして今、画面の中でなつのキャラがまた落ちた。
とても小さい声。それだけなのに妙に耳に残った。
こさめがそう言うと、
なつはこさめを見て、少し困った顔をした。その顔は、ただ褒められて嬉しいと思う顔ではなく真実なのか疑う顔だった。
こさめは嘘を言ってない。動きもさっきもり全然よかったように見えたから
その瞬間だった。
なつか、ほんの一瞬だけ、笑った。
声も出してない、口元がきゅっと、緩んだだけだが、それは確実に笑顔だった。
こさめは一瞬画面を見るフリをした。
直視したら、ダメな気がしたからだった。
なんだこれとこさめは思った。
あまりにも不意打ちだから気持ちが整理できていない。
だけどなるべくいつも通りの軽い声で話しかける。
ゲーム画面から目を離さずこさめは軽い調子でそう言った。
深い意味はない、ただ今の空気なら言っても大丈夫だと思ったから。
するとなつは一瞬動きを止めて視線を膝元へ落とした。
コントローラーを握る指先に僅かに力が入る。
拒絶ではなかった。
けれど線ははっきりと引かれていた。
こさめはその言葉を聞いて、すぐに理解した。
今はまだそこを超えてはいけない、と。
無理に変えさせても意味はない。その判断は自然だろう。
なつは少し驚いたように顔を上げてこさめを見る。
確認するような声、
不安と期待が僅かに混ざっている。
だから安心できるように言葉を選んでそう言って、こさめはまた画面は視線を向けた。
それ以上は何も言わなかった。しばらくすると
今度のなつの声は、先ほどより柔らかかった。
画面の中でキャラクターの攻撃が綺麗に決まる。
その瞬間だった、なつがはっきりと笑った。
なつは自分でも驚いたようにすぐに口元を抑える。
まるで笑ったこと自体に戸惑っているみたいただ。
こさめは、内心そう思った。
敬語でも、距離があっても。
今の笑顔はきちんと “ ホンモノ ” だった
こさめはにやっとしながらそう言う。
なつは少し黙ってから小さく頷いた。
それだけ。でも、今のこさめには、それだけで充分だった。
これ、時間かかるなあ。
そう思いながらもこさめの中に焦りはなかった。
急がなくても、いい。
この子が、ここで笑えるようになるなら。
コントローラーを握り直しながらこさめは思う。
なつが、次に笑う時も、その次も。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。