梅原さんと二人で出掛けた後、メールすら来ない。
いつも通る道には梅原さんはいるが、前とは違く、前よりも真面目な雰囲気を醸し出して、誰とも話したくないとうオーラが私にしか分からないオーラが放っていた。
私はあっと声をかけようとしたが、梅原さんはすぐ行ってしまった。
私はなんか寂しかった。
ため息をつき、仕事をしていると、店長が声をかけてきた。
「花守ちゃん、ちょっとここの会社に行って花届けてくれない?」
店長は、私に伝票を見せて言った。
「ここの会社は、すぐ近くだから行ってきて!ほら、何かあったか知らないけど……外の空気でも吸ってきな」
店長は、私が何か悩んでいることに気づいて、仕事にならないから外に出て、花の配達を頼んだんだ。
いつも配達は、店長唯一の楽しみだというので私に任せないのに……
店長に申し訳なくなった。
私は伝票を見た。
すると、そこは梅原さんが働いている場所、Rocoデザイン会社だった。
伝票には、ひまわりと花束がふたつ注文されており、そのふたつを会社に持ってきてほしいということが書かれていた。
そんなことよりも、私は梅原さんの会社に行けるので、沈んでいた気持ちが一気に明るくなった。
え?嘘ーー!
私は伝票を見ながら、手を口に押さえて嬉しい感情を抑えながら車に乗り込んだ。
車で2分くらいだろうか、Rocoデザイン会社に着いた。
この会社は花を滅多に注文してこない。
私はたまに店長の手伝いをする時にちらっと見るが、年に1度くらいしか注文がこないのだ。
だから、梅原さんがRocoデザイン会社と聞いてから何か親近感が湧いた。
そう考えていたら、会社の目の前に着いた。
それは、さっきは田舎丸出しの街並みだったのに対して、この会社が目の前にあると都会という雰囲気を感じられた。
私はそんな雰囲気を感じながら、会社に入った。
美人な受付嬢の人に、近づき
「クリームという花屋です。この会社から花を届けるようにと伝票にあったので届けにきました」
私は美人な受付嬢に言うと、はい、お待ちくださいと言い、誰かに電話をした。
すると、美人な受付嬢は、あと数分で来るのであちらでお待ち下さいと言った。
美人な受付嬢と話したら、私は周りを見渡した。
周りには、忙しいそうに資料片手に持ち、電話している人や近くにはエスカレーターがあり、上司と同僚が今からどこかに外出しようとしている。
その光景を見ながら、私は近くに休憩スペースがあり、そこに椅子が設けられていたので座って待っていた。
すると、私に向かって歩いてくる男性がいた。
誰だと注意深く見ていると……それは犬飼さんだった。
犬飼さん?
私は何故犬飼さんがいるのか分からなかった。
私は立ち上がり犬飼さんの所に駆け寄った。
「花守さん」
「犬飼さん、なんでここにいるんですか?」
私は犬飼さんを見て言った。
「それより、花束いい?」
犬飼さんは私の質問を無視して、まず花束をさっきにくれと言っていることに私は腹に立って私はムッとした。
「あ、はい」
ムッとしたが私は花束を犬飼さんに渡した。
「……すいません。ちょっとバタバタしてて……花守さんのこと無視した訳じゃないから大丈夫。あ、花束ありがとうございます。あーちょっと花を使う要件があってね。あ、あともうひとつの花は、また違う人に渡して貰えるかな。私、ちょっと要件あるからさ」
私の表情で犬飼さんは、私の思っていることが分かったのか……なんと素晴らしいお方。
私の方こそ、申し訳ないことしたなと思っていたら、犬飼さんは、じゃあと言い微笑みながらその場を去った。
私は心の中で、謝った。
注文した花は、二つだった。
ひまわりと花束。
花束は、犬飼さんが持っていた。
何か仕事で使うのだろう。
でも、ひまわりは一体誰が取りにくるのだろう。
私は、また休憩所スペースに設けられていた椅子に座り、待っていた。
その時……見たことある男性がこちらに歩いてきた。
「すいません……お待たせしました…花守さん?」
それは、梅原さんであった。
本当に彼に会えるとは思わなかった。
私はひまわりを両手で抱えながら口元が緩んでいることを知られないように花で隠した。
「う、梅原さん!」
梅原さんは、驚いたようで目を丸くしていた。
「はあー、陽介にやられたな」
梅原さんは、しゃがみ込み言った。
「はい?」
私は全く状況が飲み込めなかった。
「……陽介に言われたんです。ここに来たのは、今、花を用いたデザインを考えているんですけど、その参考としてお客様が来るから行ってきてって言われたんです……」
梅原さんは、今起きていることを包み隠さず話してくれた。
「……そうでしたか。では、これは……」
梅原さんは、花を見た瞬間驚いた様子で
私に言った。
「………あーそういうことね、陽介のやつ」
私は何のことだか分からない。
梅原さんは、今まで以上に真剣な眼差しで私を見て言った。
「花守さん…俺は今までの本当の俺とは何かと考えていてあなたにメールすることさえ出来ませんでした」
梅原さんは、私を見て言った。
「でも、本当の俺は……やはり臆病です。しかし、ひとつ言えるのは、昔の俺になかったのは自分の意思を貫くことです。諦めてばかりだったんですけど、あなたが俺に初めて声を掛けてくれた時から自信が持ってました。ありがとうございます」
私は、いえいえと応えた。
「では、今は本当の梅原さん?」
「はい」
私は申し訳なさそうに梅原さんに言った。
「……すいません、あのーひまわりどうしたらいいですか?」
梅原さんは、笑って
「では、俺が貰いますよ」
梅原さんは、楽しそうに私からひまわりを受け取り、お金を払った。
しかも、ひまわりと花束ふたつ。
犬飼さんは、払わなくていいのだろうかと考えてしまう。
まあ、それよりも梅原さんが私に本音で言ってくれたことは嬉しかった。
しかも、梅原さんは、前よりもきちんとした笑顔でそう答えて私に言った。
外見上は変わってないけど、ハキハキして言っているように見えた。
本当の彼を見た。
それだけで充分のはずなのに、胸が苦しいのはなんでだろう。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!