第3話

3.バスってやっぱ、肩がこる。
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2025/02/10 12:00 更新
真っ白なご飯に、赤だしのお味噌汁。鮭の塩焼きにほうれん草のあえもの。そして温かくほろ苦いお茶。

「美味しい……」

初登校の次の日。火子は食堂にて昼食をとっていた。

(本当に美味しい。和食神。最高。日本人でよかったよー)

ランチラッシュの食事を心の中で称え、崇め、黙々と食べる。そんな穏やかな時間を過ごしていた。

(やっぱり二日休んだのはキツかったな、授業分からんし。)

昨日電話で、学校初っ端休んで辛いよ、と愚痴っていたギャル友に爆笑されたことは忘れない。ぜったい許さん。

昨日の濃い一日を思い返しながらどんどん手を動かす。

(A組、いい人ばっかで良かったけど、あ、ばっかじゃないわ、目つきやべー人いたわ、爆豪勝己いたわ。)

今のところ特定の仲の良い友達がおらず、基本雄英では静かな火子だが、別に無口では無いので心の中では結構喋る。
口には出さない独り言を喋っていると、突然、けたたましいサイレンが鳴り響いた。

「だあああ!?何!?」

驚いて立ち上がり、辺りを見回す。他の生徒も動揺しているようだった。すると、侵入者の知らせ、避難を命じるアナウンスがかかる。周囲の生徒たちから、侵入者?屋外に避難って……と戸惑いや恐怖の声が聞こえる。
火子も突然の出来事に固まってしまっていた。

「侵入者って……なに起きてんの…」

ガタガタと椅子が動く音でハッとする。動揺しながら、避難するため生徒たちが一斉に移動を始めたのだ。人の波が押し寄せ、火子もそれに巻き込まれる。

「え、ちょ、待っうわぁっ」

押され揉まれ、今自分がどうなっているのかが分からない。ちょうど男子生徒の集団に巻き込まれ、背の高い壁に囲まれて何も見えない。

「押すなって!」

「押してねえーよ!」

彼らも上手く身動きが取れないのか、互いに文句を言いあってふらついている。火子も誰かに押されて、前の人の背中に張り付けられ、潰されそうだった。

「ゔ、ぐるし、」

本当に潰れる、やばい、と思ったその時。

どこからかにゅっと大きな腕が伸びてきて、私を引っ張った。そのまま壁側に引き寄せられ、壁に火子を押し付け覆い隠すように誰が前に立つ。

「え、何誰」

「すまない、助けようと思ったんだが」

「え、どうも?」

見上げると、マスクで顔半分を覆い、腕を複数生やした生徒がいた。どこかで見覚えがあるな、と思って誰だっけかと考え込むが、どうも思い出せない。

「覚えてないか?クラスメイトの障子だが。」

「えっと、ああ!いたいた、座ってた」

火子が誰かわからなさそうにしているのに気づいたのか、障子が自己紹介する。

「どうも、助けていただいて。」

「いやいい。怪我しそうだったしな」

火子は体格があまり良くないので、満員電車じゃ潰れかけることが日常茶飯事。ガタイの良い障子が壁になっているので、楽に息ができる状態だ。

アナウンスがかかってから少し経つが、全員が移動したせいで誰も動けず、固まってしまっている。すると、前方で誰かが喋っている声が聞こえた。障子の壁と人混みのせいで火子はよく聞き取れず、何が起きているのか障子に問う。

「ねえ、これなんの声?聞き取れないんだけど」

「あれは…飯田だな。侵入者はマスコミらしい。避難しなくても大丈夫そうだ。」

「マスコミが侵入って……雄英の警備どうなってんの?マスコミも人としてどうなの…」

「分からない。警備システムに不具合でも生じたのか…」

飯田の声により落ち着きを取り戻した生徒たちが、徐々に解散し始め、火子の周りも空いてくる。障子を当たりを見回してから、火子を解放した。

「大丈夫だったか?」

「うん、あざす」

火子は礼を言ってから、先程座っていた席に戻り、食事を再開する。せっかくの食事の時間を邪魔され、火子は少しイラついていたが、程よい味付けの鮭で心を落ち着かせていた。

(マスコミ、許さん。鮭うめえ。今度またマスコミ来たらぶっ飛ばしていいかな。ほうれん草も美味しいな。ランチラッシュ神。和食神。)







×××







「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることになった。」

マスコミ侵入事件から数日後。
少し火子は障子と仲良くなり、他のクラスメイトともそれなりに話せるようになっていた。

今日のヒーロー基礎学の実習は、火子にとっては初めての実習となる。他の生徒よりやや遅れているのでは、という不安を感じながら、火子はコスチュームを着て、バスに乗り込んだ。







「火子ちゃんのコスチューム、なんか私服っぽくてかっこええな!」

「え?ああ。ありがと。完全にうちの好みで作っただけだけどね。」

火子のコスチュームは、所々装飾のついた濃いグレーのオーバーサイズのパーカーに、白のホットパンツ、ゴツゴツした黒のブーツである。コスチュームにつけて欲しい機能などはなく、好きな服の方がやる気が出るという理由でこうなったのだ。

(ギャルの戦闘服は好きな服、なんてね。)


火子は、まだ特定の誰かと親しくなっておらず、バスに乗り込んだのも最後だったため、あまりの席に座った結果、轟焦凍の隣となった。轟は常にむっとして口数も少ないため、何となく気まずさを感じながら過ごす。

(こういう時ってなんか話した方がいいもんかなー。絶対なっちゃんだったら、轟くんちょーイケメンだねー、だとか、バス移動とかマジわくわくすんねー、だとか、言うだろーなー。)

話しかけた方がいいものか、とちらりと様子を伺ってみたが、轟は窓の外を眺め、少し眠そうにしていた。

(……別に話さんくていいか)

火子も轟に習い、景色を眺める。静かな二人とは反対に、他のクラスメイトたちは喋って盛り上がっていた。




この時は、まだ知らなかった。

これから、とてつもなく恐ろしい出来事が起こることを。







本当の、悪意の恐ろしさを。










(バスってやっぱ、肩がこる。)

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