真っ白なご飯に、赤だしのお味噌汁。鮭の塩焼きにほうれん草のあえもの。そして温かくほろ苦いお茶。
「美味しい……」
初登校の次の日。火子は食堂にて昼食をとっていた。
(本当に美味しい。和食神。最高。日本人でよかったよー)
ランチラッシュの食事を心の中で称え、崇め、黙々と食べる。そんな穏やかな時間を過ごしていた。
(やっぱり二日休んだのはキツかったな、授業分からんし。)
昨日電話で、学校初っ端休んで辛いよ、と愚痴っていたギャル友に爆笑されたことは忘れない。ぜったい許さん。
昨日の濃い一日を思い返しながらどんどん手を動かす。
(A組、いい人ばっかで良かったけど、あ、ばっかじゃないわ、目つきやべー人いたわ、爆豪勝己いたわ。)
今のところ特定の仲の良い友達がおらず、基本雄英では静かな火子だが、別に無口では無いので心の中では結構喋る。
口には出さない独り言を喋っていると、突然、けたたましいサイレンが鳴り響いた。
「だあああ!?何!?」
驚いて立ち上がり、辺りを見回す。他の生徒も動揺しているようだった。すると、侵入者の知らせ、避難を命じるアナウンスがかかる。周囲の生徒たちから、侵入者?屋外に避難って……と戸惑いや恐怖の声が聞こえる。
火子も突然の出来事に固まってしまっていた。
「侵入者って……なに起きてんの…」
ガタガタと椅子が動く音でハッとする。動揺しながら、避難するため生徒たちが一斉に移動を始めたのだ。人の波が押し寄せ、火子もそれに巻き込まれる。
「え、ちょ、待っうわぁっ」
押され揉まれ、今自分がどうなっているのかが分からない。ちょうど男子生徒の集団に巻き込まれ、背の高い壁に囲まれて何も見えない。
「押すなって!」
「押してねえーよ!」
彼らも上手く身動きが取れないのか、互いに文句を言いあってふらついている。火子も誰かに押されて、前の人の背中に張り付けられ、潰されそうだった。
「ゔ、ぐるし、」
本当に潰れる、やばい、と思ったその時。
どこからかにゅっと大きな腕が伸びてきて、私を引っ張った。そのまま壁側に引き寄せられ、壁に火子を押し付け覆い隠すように誰が前に立つ。
「え、何誰」
「すまない、助けようと思ったんだが」
「え、どうも?」
見上げると、マスクで顔半分を覆い、腕を複数生やした生徒がいた。どこかで見覚えがあるな、と思って誰だっけかと考え込むが、どうも思い出せない。
「覚えてないか?クラスメイトの障子だが。」
「えっと、ああ!いたいた、座ってた」
火子が誰かわからなさそうにしているのに気づいたのか、障子が自己紹介する。
「どうも、助けていただいて。」
「いやいい。怪我しそうだったしな」
火子は体格があまり良くないので、満員電車じゃ潰れかけることが日常茶飯事。ガタイの良い障子が壁になっているので、楽に息ができる状態だ。
アナウンスがかかってから少し経つが、全員が移動したせいで誰も動けず、固まってしまっている。すると、前方で誰かが喋っている声が聞こえた。障子の壁と人混みのせいで火子はよく聞き取れず、何が起きているのか障子に問う。
「ねえ、これなんの声?聞き取れないんだけど」
「あれは…飯田だな。侵入者はマスコミらしい。避難しなくても大丈夫そうだ。」
「マスコミが侵入って……雄英の警備どうなってんの?マスコミも人としてどうなの…」
「分からない。警備システムに不具合でも生じたのか…」
飯田の声により落ち着きを取り戻した生徒たちが、徐々に解散し始め、火子の周りも空いてくる。障子を当たりを見回してから、火子を解放した。
「大丈夫だったか?」
「うん、あざす」
火子は礼を言ってから、先程座っていた席に戻り、食事を再開する。せっかくの食事の時間を邪魔され、火子は少しイラついていたが、程よい味付けの鮭で心を落ち着かせていた。
(マスコミ、許さん。鮭うめえ。今度またマスコミ来たらぶっ飛ばしていいかな。ほうれん草も美味しいな。ランチラッシュ神。和食神。)
×××
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう1人の3人体制で見ることになった。」
マスコミ侵入事件から数日後。
少し火子は障子と仲良くなり、他のクラスメイトともそれなりに話せるようになっていた。
今日のヒーロー基礎学の実習は、火子にとっては初めての実習となる。他の生徒よりやや遅れているのでは、という不安を感じながら、火子はコスチュームを着て、バスに乗り込んだ。
「火子ちゃんのコスチューム、なんか私服っぽくてかっこええな!」
「え?ああ。ありがと。完全にうちの好みで作っただけだけどね。」
火子のコスチュームは、所々装飾のついた濃いグレーのオーバーサイズのパーカーに、白のホットパンツ、ゴツゴツした黒のブーツである。コスチュームにつけて欲しい機能などはなく、好きな服の方がやる気が出るという理由でこうなったのだ。
(ギャルの戦闘服は好きな服、なんてね。)
火子は、まだ特定の誰かと親しくなっておらず、バスに乗り込んだのも最後だったため、あまりの席に座った結果、轟焦凍の隣となった。轟は常にむっとして口数も少ないため、何となく気まずさを感じながら過ごす。
(こういう時ってなんか話した方がいいもんかなー。絶対なっちゃんだったら、轟くんちょーイケメンだねー、だとか、バス移動とかマジわくわくすんねー、だとか、言うだろーなー。)
話しかけた方がいいものか、とちらりと様子を伺ってみたが、轟は窓の外を眺め、少し眠そうにしていた。
(……別に話さんくていいか)
火子も轟に習い、景色を眺める。静かな二人とは反対に、他のクラスメイトたちは喋って盛り上がっていた。
この時は、まだ知らなかった。
これから、とてつもなく恐ろしい出来事が起こることを。
本当の、悪意の恐ろしさを。
(バスってやっぱ、肩がこる。)












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。