「や、な、ぎ、さ〜ん」
「な、何」
少し怖い笑顔で芦戸三奈という女の子が近寄ってくる。
「一緒に、マック行こ!!」
「ええ…」
初登校日の放課後。マックに誘われました。
なんだか質問攻めされそうな予感がして、断ろうと口を開く。その瞬間、後ろから誰かに羽交い締めされた。
「え、ちょ、なに」
振り返ると、制服だけが浮いている。たしか、透明になれる個性の、葉隠透。
「つっかまえたー!行こいこっ!」
「ええぇ……」
「それではっ。第1回A組女子会、開催っ!カンパーイ!」
「「カンパーイ!!」」
「あ、あぁ…」
あの後火子はA組の女子に連れられ、マックにやってきた。火子を逃がすまいとボックス席の奥側に座らせ、全員で囲んでいる。
「私たちまだ出会って三日だしさ、いっぱいお話しよっ!」
「ウチらでも一応色々自己紹介したけどさ、柳のことは皆わかんないし、気になってる。」
「ね、どこ出身?」
キラキラした瞳でみんなが一斉に火子を見つめる。
少し困った顔をしながら火子は答える。
「えっと、京都…」
「京都?いいなぁー!でもちょっと意外!あと訛ってないし!」
「家族があんま訛ってないから」
「へー!!!」
「じゃあじゃあ!誕生日!」
「12月31日」
「大晦日や〜」
「えっと好きな食べ物!おやつとご飯系両方!」
「肉じゃがと……五平餅…」
「五平餅?何それ」
芦戸が首を傾げる。
「粳米を粗めに潰して、味噌や醤油、ゴマなどで作ったタレをかけて焼いたものですわ。中部地方の郷土料理ですわね。」
「あ、八百万さん知ってるんだ。」
「愛知出身なんです。」
「ウチも知ってる。あんま食べたことないけど。」
「私もよ。ケロ」
「お二人はどちらからですか?」
「ウチは静岡」
「私は愛知よ」
「山間部で食べられることが多いから、その辺じゃあんまり知らんかもね。」
「へー、食べてみたいなー。でもなんで京都出身なのに食べたことあるの?」
葉隠がおそらくだが首を傾けている。
「小4、5くらいに引っ越した。岐阜の飛騨のおばあちゃん家に。」
「そーなんや!」
五平餅の話題がひと段落つくと、思い出したように芦戸が火子に話しかける。
「そうそう!聞くの忘れてた!個性何?」
「あっそうやん、なんなん?」
この個性社会、若い人ほど興味を持つ話題で、全員がわくわくした目で火子を見つめる。
「えっと、念力」
「「念力??」」
「こうやって、手で触れなくても物を動かせる。」
火子はそう言って手を伸ばし、自分の手前にあった紅茶の入った紙コップを浮かせる。
「おお〜」
「便利そう!」
麗日たちが楽しそうな反応をする。
「だから私の特技、スプーン曲げなんだよね。」
「す、スプーン曲げ…」
「確かに、小さい子の前でやったらよろこばれそうね、ケロ」
火子の個性、念力。
誰にも見えない、火子の心の手、とでもいうのだろうか、それで物を掴むことができる。あまり遠くのものは掴めない。この個性を使えば、スプーン曲げ程度お手のものである。
「あの、私の話ばっか聞いてつまらなくない?」
自分にしか質問が来ず、他の人とも話すよう促す。
「えー!そんな事ないよ!ねね、あと1個聞いていい?」
「ど、どうぞ」
芦戸の押しに負け、新たに質問を受け付ける。
「柳さん結構服着崩してるけど、ギャルってやつ?」
「え、あーまあ、そんな感じ」
「へー!岐阜のギャルかー!」
岐阜のギャル…?と火子は少し宇宙猫状態になる。
しかし、芦戸が1つ勘違いしているな、と思い、口を挟む。
「私、中学の後半岐阜じゃない」
「え、そなの!?」
「おばあちゃんと静岡に引っ越した。」
「なんでまた……」
「色々あったの」
「色々……」
説明する気のない答えに、芦戸はそれ以上踏み込むのはやめ、一旦注文した品に手をつける。それに合わせ、他の6人も食べ始める。
「そうだわ」
蛙水がふと思いたって、火子に話しかける。
「火子ちゃん、スプーン曲げ得意なんでしょう。今度見せてくれないかしら。」
「そうだ!見たい見たい!」
「えぇ」
突然の注文に、火子は戸惑う。困ったように眉を八の字にするが、蛙水たちの顔は期待の表情でいっぱいである。
「ええと、うーーん、」
少し唸ると、火子はゴソゴソと自身の鞄の中を漁る。
どこだ?あれ、っかしーな、とぶつぶつつぶやき、数十秒。
「あ、あった」
鞄から、コンビニにあるプラスチックのスプーンが取り出された。
「え、なんでもってんの」
「私のギャル友達が私のスプーン曲げ一発芸好きで…」
「みーせて!!」
「わかった」
ごほん、と少し咳払いしてから、火子は左手にスプーンを握り、右手をそこにかざす。
そして、少しだけ緊張したような高い声で話し出した。
「えー、皆様、こちらのスプーンにご注目。わたくし火子が見事曲げて見せましょう。」
火子そう語ると、彼女の手に少し力が入った。
そして、だんだんスプーンが曲がって行く。
「「おお〜!!」」
結構曲がった、その時、パキン、とスプーンが割れた。
「「ああ〜、」」
「プラスチックだから割れるよ」
「確かにそうですわね」
「でもすごいねー!」
「ノリノリでセリフ言ってたじゃ〜ん」
「これは友達が考えたやつね」
スプーン曲げは、思いのほか好評だった。
その後も雑談は続き、主に火子は聞き役に徹していた。
そして良い頃合いで解散する。
マックからの帰り道、高校生活初っ端からつまづいたと思ったが、意外にも順調だな、と考えながら歩く。
このままいけばクラスメイトとは良い関係を築けそうだ。
「あ、でも」
ギャルの特技がスプーン曲げはパワーワードすぎる。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!