固く閉じた目を開けた時、私は明るい緑の森に迷い込んでいた。
目の前には一匹の黒猫と陽だまりのような髪の青年ユリシーズがいる。
ユリシーズは自分のことを魔法使い、そして、この場所を箱庭と言っているけど……。
その声の方を振り返ると、ずっと私のそばにいたあの黒猫だった。
そう言ってユリシーズはすり傷だらけの私の足に手のひらをかざす。
呪文を唱えたユリシーズの周りにどこからか水のような光が集まり、そこから傷口に1滴の雫が落ちる。
波紋の広がりと同時に痛みが引き、傷は跡形もなく消えてしまった。
そんな奇跡を見せられた私は、ユリシーズが本当に魔法使いなのだと一瞬で理解した。
綺麗なユリシーズが小さな男の子のように喜び、私はその笑顔になんだか気が抜けた。
その瞬間、太陽は早送りしている様に森の奥へと沈んでいき、空はオレンジに染まったかと思うと暗い紺色に星を散りばめる。
ベラは昇った月を見上げて首を傾げる。
暗い森の中でベラの金色の瞳がギラリと光り、妖しく微笑んでいる様に見える。
ユリシーズは「めっ!」とベラの鼻に人差し指を当てると、彼女は顔を逸らして言い返し、私をじっと見つめる。
好きに選んでいい、その言葉に私の心はギュッと掴まれてしまう。
ユリシーズは私の手を取り、分厚い木のドアを開けて中へ入れてくれる。
部屋一面に敷かれたカーペットの上には木製のダイニングテーブルと2つの椅子があり、いたる所に本が積み重ねられている。
壁中に本棚や薬棚などが並べられていて、たくさんの物で溢れていた。
部屋の奥のキッチンからはいい匂いがして、自然とお腹から大きな音を鳴る。
ユリシーズが手をひらりと振ると、部屋中の本が鳥のように羽ばたいて棚に収まっていく。
彼が自分の手でテーブルクロスをふわりと敷けば、その上にはキッチンから宙を舞ってやってきた食器や料理が綺麗に並んだ。
鮮やかな色のトマトスープと大皿にはパイのような料理、大きなベーコンなど初めて見る料理がたくさんある。
ユリシーズは直接大皿からお肉のパイをすくい口に入れる。
「ね?」そう言って、もう一度それをすくうと私の口元まで持ってきてくれた。
私は大きく口を開けてスプーンごとお肉のパイを口に含んだ。
滑らかなポテトとお肉が二重構造になっているパイは、まろやかな優しい味とジューシーなうまみが混ざり合って口の中に広がる。
いつのまにか目の前のお皿にはたくさんの料理が盛りつけられ、自分でスプーンを持って食べ始める。
ユリシーズはそんな私を嬉しそうに眺めていた。
誰かと一緒に食べるご飯はとても美味しくて、私は幸福感と満腹感で眠くなってしまう。
目をこすっているとふわりと体が浮く。ユリシーズは私をお姫さま抱っこして、隣の薄暗い部屋へと連れていく。
ふかふかのベッドにゆっくりと下され、私は幸せを噛みしめて眠りについた。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。