第5話

 【第一章】肆 
725
2024/06/09 02:29









 蘇枋 
 せん、せい 

 「隼飛」と呼ぶ声はあまりに懐かしくて、過去の情景を鮮やかに思い出させる


 オレと同じ色の髪をハーフアップに結い上げて、オレと同じような背筋の伸びた姿勢





 蘇枋 
 なんで、しんだんじゃ、 

 師匠 
 たかだか葬式だけで
 勘違いしないでほしいな 

 「たかだか葬式」だなんて、やっぱりこの人は普通の人間とは価値観が斜め上にズレている。


 師匠 
 はぴんぴんしてるよ 
 師匠 
 あの葬式もダミーだ 
 因みに、棺桶の中身もレプリカ 


 師匠 
 ちょっと、私が死んだと周囲に 
 思わせたほうが都合が
 良かったもんでね 
 師匠 
 あぁ…因みに今もあまり
 周囲に生きていることは
 知られたくないからね、 
 師匠 
 手短に終わらせてもらうよ 



 その瞬間、殺気が有り得ないほどに加増して、思わず震えが止まらなくなる



 いくら師匠と言えども、今は敵だ。

 にれ君を守るために前に立とうとする




 蘇枋 
 (あれ、脚が…) 

 脚が、動かなかった




 恐怖と、驚愕と、安堵と、

 「オレが勝てるわけない」

 そんな気持ち。



 自分のが心の底から師と思う人に、勝てる人なんていない



 隣を見るとにれ君も震えていて、守らないといけないと思う


 正直、これはキツい





 師匠 
 おいで隼飛 

 首を擡げて、視線を師匠に移す

 
 師匠 
 お前は昔から特別
 聞き分けのいい子供だ 

 どうしよう、どうすれば、なにが最善で最適か、考えないと
 勝てるプランが見えない時、どう戦えばいい?

 師匠と戦うイメージなんてしたことがないから何も考えられない、勝てない


 桜 
 すお、いくな、 

 師匠に襟を掴まれて意識も朦朧としているだろうに、桜くんがそう、呼びかけてくる




 師匠 
 そんなお前を弟子にもてて 
 私は幸せ者だよ
 オレも、師匠の弟子としていられて幸せだった

 師匠 
 さあ

 後ろのそれがまだ綺麗なうちに… 

 師匠 
 こちらへ来なさい 






 ごめんなさい、師匠





 蘇枋 
 オレの友達をそれ呼ばわりする 
 ような人が師匠だったなんて
 蘇枋 
 心外だな… 

 無駄だと分かっていながらも、オレなりに、オレなりの最低限の抵抗をする

 挑発して少しでも感情が揺らいでくれれば良いけど、そんなことで感情的になる師匠とは全くもって思えない
 第一、オレにメンタルトレーニングを教えたのは師匠だ



 師匠 
 おや、もう私のことを 
 師匠とは思ってないのかい? 
 やんわりと微笑みながら言う師匠。

 これは無理だ



 師匠 
 なら、力ずくで思わせるしか 
 ないみたいだ 

 蘇枋 
 やってみてくださいよ、ぇ 




















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