その日の夜。
基地は珍しく静かだった。
大きな任務が一段落し、幹部達もそれぞれ自室で休んでいる。
廊下を照らす明かりも少なく、穏やかな空気が流れていた。
そんな中。
ショッピは、トントンの部屋の前で立ち止まっていた。
「……」
手を上げる。
けれど、ノックする勇気が出ない。
迷惑かもしれない。
忙しいかもしれない。
また甘えてるって思われるかもしれない。
そんな考えがぐるぐる回る。
だが。
今日は、どうしても一人でいるのが嫌だった。
昼間、偶然見かけた古い拘束具。
倉庫整理中に見えてしまったそれが、昔の記憶を掘り返してしまったのだ。
頭から離れない。
冷たい金属の感触。
繋がれた手首。
逃げられなかった恐怖。
「……っ」
呼吸が浅くなる。
その時。
ガチャ。
突然扉が開いた。
「……ショッピ?」
トントンだった。
ショッピはびくっと肩を震わせる。
「なんや、どした」
優しい声。
その瞬間。
張り詰めていたものが一気に揺らいだ。
「……ねれ、なくて」
掠れた声だった。
トントンは一瞬だけ目を細める。
それだけで、ショッピがかなり限界なのだと分かった。
「入る?」
その問いに、ショッピは小さく頷いた。
部屋へ入ると、暖かな空気が身体を包む。
トントンはソファへ座りながら、ショッピをちらりと見た。
「なんかあったんか」
「……」
ショッピは答えない。
いや、答えられない。
怖い。
過去を話したら嫌われるんじゃないか。
重いと思われるんじゃないか。
その不安が邪魔をする。
するとトントンは、ふっと息を吐いた。
「話したくないなら、それでもええよ」
「……っ」
「でも、一人はしんどかったんやろ?」
その言葉に、ショッピの瞳が揺れる。
全部見透かされたみたいだった。
ショッピはぎゅっと服の裾を握り締める。
そして。
「……おいて、いかれたんです」
ぽつり、と呟いた。
トントンは黙って聞く。
「能力が怖いって……皆離れて……」
「……」
「助けてって言っても、誰も来なくて……」
声が震える。
喉が詰まる。
思い出したくない。
でも、止まらない。
「閉じ込められて……失敗したら怒鳴られて……」
ショッピの指先が小刻みに震える。
「ずっと、いらない子やった」
その言葉に。
トントンの表情が歪んだ。
怒りだった。
ショッピへ向けたものじゃない。
過去にショッピを傷つけた人間達への怒り。
「……そんなわけあるか」
低い声。
ショッピが顔を上げる。
トントンは真っ直ぐショッピを見ていた。
「ショッピはちゃんとここにおる」
「……」
「俺らが見つけた、大事な仲間や」
その言葉が胸に刺さる。
仲間。
大事。
そんな風に言われるたび、心がぐらぐら揺れる。
嬉しくて。
怖くて。
信じたくなる。
「……でも」
ショッピの声が掠れる。
「また、嫌われたら……」
本音だった。
一番怖いこと。
この場所を失うこと。
皆に見捨てられること。
すると。
トントンは静かに手を伸ばした。
以前なら触れられるだけで怯えていたショッピも、今は逃げない。
そっと頭を撫でられる。
優しい手。
「嫌わへんよ」
穏やかな声だった。
「絶対に」
その一言で。
ショッピの中の何かが崩れた。
ぽろぽろと涙が零れる。
「っ、ぅ……」
泣き声を堪えようとしても無理だった。
トントンは何も言わず、ただ隣にいてくれる。
急かさない。
否定しない。
その優しさが、どうしようもなく温かい。
しばらくして。
ショッピは震える声で、小さく呟いた。
「……ここに、おってもいいですか」
消えそうな声。
まるで許可を求めるような問い。
その瞬間。
トントンは少し目を見開いて――すぐに困ったように笑った。
「何を今さら」
「……ぇ」
「お前の居場所、もうここやろ」
その言葉に、ショッピは完全に泣き崩れた。
今までずっと欲しかったもの。
帰る場所。
必要としてくれる人。
それが、ここにあった。
トントンは泣き続けるショッピの背中を、ゆっくり撫でる。
「……おかえり、ショッピ」
優しい声が響く。
ショッピは涙でぐしゃぐしゃになりながら、小さく頷いた。
もう。
この温もりを、手放したくなかった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。