第10話

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2026/06/02 03:21 更新
その日の夜。

基地は珍しく静かだった。

大きな任務が一段落し、幹部達もそれぞれ自室で休んでいる。

廊下を照らす明かりも少なく、穏やかな空気が流れていた。

そんな中。

ショッピは、トントンの部屋の前で立ち止まっていた。

「……」

手を上げる。

けれど、ノックする勇気が出ない。

迷惑かもしれない。

忙しいかもしれない。

また甘えてるって思われるかもしれない。

そんな考えがぐるぐる回る。

だが。

今日は、どうしても一人でいるのが嫌だった。

昼間、偶然見かけた古い拘束具。

倉庫整理中に見えてしまったそれが、昔の記憶を掘り返してしまったのだ。

頭から離れない。

冷たい金属の感触。

繋がれた手首。

逃げられなかった恐怖。

「……っ」

呼吸が浅くなる。

その時。

ガチャ。

突然扉が開いた。

「……ショッピ?」

トントンだった。

ショッピはびくっと肩を震わせる。

「なんや、どした」

優しい声。

その瞬間。

張り詰めていたものが一気に揺らいだ。

「……ねれ、なくて」

掠れた声だった。

トントンは一瞬だけ目を細める。

それだけで、ショッピがかなり限界なのだと分かった。

「入る?」

その問いに、ショッピは小さく頷いた。

部屋へ入ると、暖かな空気が身体を包む。

トントンはソファへ座りながら、ショッピをちらりと見た。

「なんかあったんか」

「……」

ショッピは答えない。

いや、答えられない。

怖い。

過去を話したら嫌われるんじゃないか。

重いと思われるんじゃないか。

その不安が邪魔をする。

するとトントンは、ふっと息を吐いた。

「話したくないなら、それでもええよ」

「……っ」

「でも、一人はしんどかったんやろ?」

その言葉に、ショッピの瞳が揺れる。

全部見透かされたみたいだった。

ショッピはぎゅっと服の裾を握り締める。

そして。

「……おいて、いかれたんです」

ぽつり、と呟いた。

トントンは黙って聞く。

「能力が怖いって……皆離れて……」

「……」

「助けてって言っても、誰も来なくて……」

声が震える。

喉が詰まる。

思い出したくない。

でも、止まらない。

「閉じ込められて……失敗したら怒鳴られて……」

ショッピの指先が小刻みに震える。

「ずっと、いらない子やった」

その言葉に。

トントンの表情が歪んだ。

怒りだった。

ショッピへ向けたものじゃない。

過去にショッピを傷つけた人間達への怒り。

「……そんなわけあるか」

低い声。

ショッピが顔を上げる。

トントンは真っ直ぐショッピを見ていた。

「ショッピはちゃんとここにおる」

「……」

「俺らが見つけた、大事な仲間や」

その言葉が胸に刺さる。

仲間。

大事。

そんな風に言われるたび、心がぐらぐら揺れる。

嬉しくて。

怖くて。

信じたくなる。

「……でも」

ショッピの声が掠れる。

「また、嫌われたら……」

本音だった。

一番怖いこと。

この場所を失うこと。

皆に見捨てられること。

すると。

トントンは静かに手を伸ばした。

以前なら触れられるだけで怯えていたショッピも、今は逃げない。

そっと頭を撫でられる。

優しい手。

「嫌わへんよ」

穏やかな声だった。

「絶対に」

その一言で。

ショッピの中の何かが崩れた。

ぽろぽろと涙が零れる。

「っ、ぅ……」

泣き声を堪えようとしても無理だった。

トントンは何も言わず、ただ隣にいてくれる。

急かさない。

否定しない。

その優しさが、どうしようもなく温かい。

しばらくして。

ショッピは震える声で、小さく呟いた。

「……ここに、おってもいいですか」

消えそうな声。

まるで許可を求めるような問い。

その瞬間。

トントンは少し目を見開いて――すぐに困ったように笑った。

「何を今さら」

「……ぇ」

「お前の居場所、もうここやろ」

その言葉に、ショッピは完全に泣き崩れた。

今までずっと欲しかったもの。

帰る場所。

必要としてくれる人。

それが、ここにあった。

トントンは泣き続けるショッピの背中を、ゆっくり撫でる。

「……おかえり、ショッピ」

優しい声が響く。

ショッピは涙でぐしゃぐしゃになりながら、小さく頷いた。

もう。

この温もりを、手放したくなかった。

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