「ショッピ、これ運ぶの手伝ってくれへん?」
「……別にいいですけど」
昼過ぎの倉庫。
頼まれた段ボールを抱えながら、ショッピは小さく息を吐いた。
基地での生活にも、だいぶ慣れてきた。
最初は廊下を歩くだけで怯えていたのに、今ではこうして簡単な手伝いまでしている。
もちろん、まだ怖いことは多い。
知らない人は苦手だし、突然触れられると固まる。
けれど幹部達がそばにいるだけで、不思議と安心できた。
「それこっちなー」
シャオロンが奥から手を振る。
ショッピは「はいはい」と返しながら歩いていき――。
ガタンッ!!
突然、大きな音が響いた。
積み上げられていた箱が崩れ落ちる。
「っ!?」
ショッピが反射的に身を竦めた。
その瞬間。
脳裏に蘇る。
――『失敗した罰や』
――『お前が悪い』
――『動くな!!』
怒鳴り声。
殴られる痛み。
閉じ込められた暗い部屋。
「ぁ……っ」
息が詰まる。
身体が震える。
怖い。
怖い怖い怖い。
「ショッピ!?」
シャオロンが慌てて駆け寄る。
だが、その足音だけでショッピはさらに怯えた。
「こない、で……っ」
びくびく震えながら後退る。
瞳に浮かぶのは、明確な恐怖。
シャオロンの顔が青ざめた。
「ご、ごめん! 近づかへんから!」
慌てて距離を取る。
その間に、騒ぎを聞きつけた幹部達が集まってきた。
「どうした!?」
「箱崩れて……ショッピが……」
トントンはショッピを見るなり表情を変えた。
呼吸が荒い。
顔色が悪い。
完全に過呼吸寸前だった。
「……ショッピ」
低く穏やかな声。
ショッピの肩がぴくりと動く。
「俺や。大丈夫」
ゆっくり。
刺激しないように。
トントンは少しずつ近づいていく。
「誰も怒らへん」
「っ……」
「失敗ちゃう。事故や」
その言葉に、ショッピの瞳が大きく揺れた。
事故。
失敗じゃない。
怒られない。
そんなの、信じられなかった。
「……ほん、ま……?」
掠れた声。
トントンは迷わず頷く。
「ほんまや」
その瞬間。
ショッピの目から、ぽろっと涙が落ちた。
「っ、ぅ……」
震える身体。
必死に泣くのを我慢しているのが分かる。
するとゾムが、ぐしゃっと頭を掻いた。
「誰が箱積んだんやこれ」
「俺です……」
ロボロが小さく手を挙げる。
「積み方雑すぎるやろアホ」
「理不尽!!」
わざとらしく騒ぎ始める二人。
空気を軽くしようとしているのが分かった。
「つまりロボロのせいやな」
「なんで!?」
「ショッピ悪くないってことや」
エーミールが優しく言う。
ショッピは呆然としていた。
自分のせいじゃないと、皆が言ってくれる。
責めない。
怒鳴らない。
そんなこと、今まで無かった。
「……っ」
涙が止まらない。
すると。
ぽふん。
黒い煙のようなものと共に、ショッピの姿が猫へ変わった。
「あっ」
「限界きたな」
猫姿になったショッピは、そのままふらふらとトントンへ近づき――。
ぎゅっ。
服にしがみついた。
「……!」
幹部達が静かに目を見開く。
ショッピから、自分から甘えにいった。
それがどれだけ大きな変化か、皆分かっていた。
トントンは一瞬驚いた後、そっと黒猫を抱き上げる。
「……頑張ったな」
優しく撫でられる。
ショッピの喉が、小さく鳴った。
くるる、と甘えるような音。
「うわ……」
シャオロンが感動したように呟く。
「完全に心許し始めとるやん……」
「成長感じて泣きそう」
「お前ら静かに」
トントンが苦笑する。
ショッピはトントンの胸元へ顔を埋めた。
まだ怖い。
傷跡は消えない。
きっとこれからも、急に苦しくなる日はある。
それでも。
この人達は、何度でも“大丈夫”と言ってくれる。
その温かさが。
ショッピの凍りついた心を、少しずつ溶かしていくのだった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。