第9話

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2026/05/30 22:47 更新
「ショッピ、これ運ぶの手伝ってくれへん?」

「……別にいいですけど」

昼過ぎの倉庫。

頼まれた段ボールを抱えながら、ショッピは小さく息を吐いた。

基地での生活にも、だいぶ慣れてきた。

最初は廊下を歩くだけで怯えていたのに、今ではこうして簡単な手伝いまでしている。

もちろん、まだ怖いことは多い。

知らない人は苦手だし、突然触れられると固まる。

けれど幹部達がそばにいるだけで、不思議と安心できた。

「それこっちなー」

シャオロンが奥から手を振る。

ショッピは「はいはい」と返しながら歩いていき――。

ガタンッ!!

突然、大きな音が響いた。

積み上げられていた箱が崩れ落ちる。

「っ!?」

ショッピが反射的に身を竦めた。

その瞬間。

脳裏に蘇る。

――『失敗した罰や』

――『お前が悪い』

――『動くな!!』

怒鳴り声。

殴られる痛み。

閉じ込められた暗い部屋。

「ぁ……っ」

息が詰まる。

身体が震える。

怖い。

怖い怖い怖い。

「ショッピ!?」

シャオロンが慌てて駆け寄る。

だが、その足音だけでショッピはさらに怯えた。

「こない、で……っ」

びくびく震えながら後退る。

瞳に浮かぶのは、明確な恐怖。

シャオロンの顔が青ざめた。

「ご、ごめん! 近づかへんから!」

慌てて距離を取る。

その間に、騒ぎを聞きつけた幹部達が集まってきた。

「どうした!?」

「箱崩れて……ショッピが……」

トントンはショッピを見るなり表情を変えた。

呼吸が荒い。

顔色が悪い。

完全に過呼吸寸前だった。

「……ショッピ」

低く穏やかな声。

ショッピの肩がぴくりと動く。

「俺や。大丈夫」

ゆっくり。

刺激しないように。

トントンは少しずつ近づいていく。

「誰も怒らへん」

「っ……」

「失敗ちゃう。事故や」

その言葉に、ショッピの瞳が大きく揺れた。

事故。

失敗じゃない。

怒られない。

そんなの、信じられなかった。

「……ほん、ま……?」

掠れた声。

トントンは迷わず頷く。

「ほんまや」

その瞬間。

ショッピの目から、ぽろっと涙が落ちた。

「っ、ぅ……」

震える身体。

必死に泣くのを我慢しているのが分かる。

するとゾムが、ぐしゃっと頭を掻いた。

「誰が箱積んだんやこれ」

「俺です……」

ロボロが小さく手を挙げる。

「積み方雑すぎるやろアホ」

「理不尽!!」

わざとらしく騒ぎ始める二人。

空気を軽くしようとしているのが分かった。

「つまりロボロのせいやな」

「なんで!?」

「ショッピ悪くないってことや」

エーミールが優しく言う。

ショッピは呆然としていた。

自分のせいじゃないと、皆が言ってくれる。

責めない。

怒鳴らない。

そんなこと、今まで無かった。

「……っ」

涙が止まらない。

すると。

ぽふん。

黒い煙のようなものと共に、ショッピの姿が猫へ変わった。

「あっ」

「限界きたな」

猫姿になったショッピは、そのままふらふらとトントンへ近づき――。

ぎゅっ。

服にしがみついた。

「……!」

幹部達が静かに目を見開く。

ショッピから、自分から甘えにいった。

それがどれだけ大きな変化か、皆分かっていた。

トントンは一瞬驚いた後、そっと黒猫を抱き上げる。

「……頑張ったな」

優しく撫でられる。

ショッピの喉が、小さく鳴った。

くるる、と甘えるような音。

「うわ……」

シャオロンが感動したように呟く。

「完全に心許し始めとるやん……」

「成長感じて泣きそう」

「お前ら静かに」

トントンが苦笑する。

ショッピはトントンの胸元へ顔を埋めた。

まだ怖い。

傷跡は消えない。

きっとこれからも、急に苦しくなる日はある。

それでも。

この人達は、何度でも“大丈夫”と言ってくれる。

その温かさが。

ショッピの凍りついた心を、少しずつ溶かしていくのだった。

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