第16話

#14「夢みたいな現実」
285
2026/05/02 15:00 更新


  
  あの人は、前のお父さんより、多分ずっと優しかった。
マシだった。大丈夫だった。

_
―――お母さんには秘密だよ。
_
俺と、君の内緒。


抵抗したら殴られた。
でも声を上げたらお母さんが起きる。
お母さんが起きたら、
きっと私は殺されちゃうと思った。

お母さんは歪んでいるから、
男の人で彼女の人生は構成されている。
あの人とこうしているのがバレれば、
お母さんの人生を壊したのと同じだ。
殺される。きっと、殺されるから。
痛いのは、もう、嫌だから。

あなた
うん!


笑った。汚いなぁと、自分でも思った。

別に抵抗しなくても
あの人の機嫌が悪かったら殴られた。
背中と、お腹。見えないところばっかり。
でも、前のお父さんは、
私が何をしてようが、機嫌がどうであろうが
私のことを殴っていたからずっとマシだった。

マシだと思わなければ、耐えられなかった。


  痛かった。心も身体も消費されるのが辛かった。
その度に彼のことを思い出した。

けど、彼は、綺麗なものが好きで。
私はもうずっと、汚いから。
死にたくなって、けど死にたくなくて、それで、

あなた
( 狛枝凪斗 )
あなた
( 彼が、幸せに、なったら )


死ぬのはずっと怖かった。痛くて、怖くて。
一回死んだって怖いものは怖かった。でも、
彼が幸せになったら。そうしたら、きっと。

彼の幸せが、私の幸せ。
幸せなまま死ねるなら、
自殺だって出来るかもしれない、と思ったのである。



◇◇◇


  パチパチ、と何度か瞬きをすると、
段々と意識が覚醒していくのがわかった。
白い天井だ。シミひとつない、綺麗な天井。
白色は好き。なんとなく、彼を思い出せるから。

  ぐぐ、と身体を起こすと、隣から声が聞こえた。

狛枝 凪斗
―――あ、
あなた
わ!!???


思わず飛び跳ねて、肩をちょっと動かしてしまった。
激痛が走る。でも気にならないくらいびっくりした。

彼が、狛枝くんが、ここにいたのである。
私のベッドの横に座って!

あなた
こ、狛枝くん………? なんでここに、
狛枝 凪斗
課題、届けに来たんだけど。


どうやら、私の入院期間中の課題が渡されたらしい。
結構嫌だったけど、彼に会えたからなんでもいい。
先生ありがとう。課題はしっかりやろうと決意した。

あなた
わざわざありがとう、狛枝くん。
狛枝 凪斗
ああ、うん。どうも。


彼は無表情だ。

狛枝 凪斗
医療費、いくらになりそうなの。


それから、こう言った。

あなた
…………医療費、


ああ、そういえば、前にもこんな話をした。
手を怪我した時だ。今もちょっと痛んでる。
また、払おうとしてくれているのか。

あなた
払おうとしてくれてるなら…
医療費なんていらな、
狛枝 凪斗
―――もううんざりなんだ。


彼は冷え切る瞳で、ため息をついた。

プリ小説オーディオドラマ