第56話

56
964
2025/04/05 10:00 更新
ミノは生徒会室の扉を静かに閉めた。

スンミンの要望通り、綺麗に片付け、荷物はすでにまとめ終えていた。


明日の朝、「当選キム・スンミン」と記された紙が校舎の入り口の掲示板に貼り出される。


その作業を終えた今、ミノの仕事はすべて終わった。

もう、あの椅子に座ることはない。

ミノは最後に誰もいない部屋を振り返り、深く一礼をしてから、扉を閉めた。
 
 

扉の向こうに続く静かな廊下を歩きながら、心のどこかがぽっかりと空いたような気がした。


けれど、それは寂しさではなく、どこか穏やかな感情だった。



ミノは静かに校舎を後にし、そのまま家へと向かった。







そして、いつもの帰り道。

家の近くの公園の入り口で、見覚えのある後ろ姿が目に入った。



ジソンだ。



ベンチに座り、ゆっくりと足を揺らしながら、誰かを待っているようだった。

前と変わらず、少し猫背気味の小さな背中。


だが、以前よりもどこか力強さを感じる気がした。


 
ミノは思わず声をかける。



ミノ
ミノ
…ハナ?



その瞬間、ジソンがパッと顔を上げた。



ジソン
ジソン
ミノヒョン!待ってた!




ジソンはそう言って、にこっと笑った。

ミノは少し驚いた。


最後に公園で出会った時のジソンとは、どこか違う笑顔に見えた。
 


ジソン
ジソン
お疲れ様、開票してたんでしょ?




ジソンがそう言いながら、ポンポンとベンチの隣の席を叩いた。

ミノは軽く微笑み、ジソンの隣に腰を下ろす。
 


ミノ
ミノ
うん。




頷くと、ジソンは少し期待するような表情で尋ねた。



ジソン
ジソン
スンミン、当選した?



ミノは一瞬、答えに詰まり、しかしすぐに笑って首を横に振った。



ミノ
ミノ
それはまだ言えないよ、ハニ。
ジソン
ジソン
あ、そっか。




ジソンは少し肩をすくめた後、そりゃそうだよねと苦笑いする。

そして、空を見上げながら、小さく息を吐いた。



ミノ
ミノ
…学校、楽しい?




ふと、ミノがそう問いかけた。


ジソンは少し驚いたように目を瞬かせ、ミノを見た。



しばらく沈黙が流れる。

ミノは、正直な答えを聞きたいと思った。



ジソン
ジソン
うん、楽しいよ!




ジソンは迷いなくそう答えた。

ミノは思わず、ジソンの横顔を見つめた。



彼は本当に変わったのだ。

自分がいなくても、ちゃんと居場所を見つけ、そこで生きていけるようになった。


ヒョンジンやヨンボクと並んで笑っている姿を見たときもそう思ったが、

今、こうして自分に向かってはっきりと「楽しい」と言えたことが、何よりの証拠だった。



ミノはふっと微笑む。
 


ミノ
ミノ
…それなら、よかった。



夜空に、少し冷たい風が吹き抜けた。



ジソン
ジソン
…あ、それと。




ジソンはふと、何かを思い出したように呟いた。



ジソン
ジソン
ダンス部じゃなくて、軽音部に入ることにした。




ミノは意外そうに眉を上げる。



ミノ
ミノ
軽音部?
ジソン
ジソン
うん。




ジソンは少し恥ずかしそうに頷いた。
 


ジソン
ジソン
なんか、音楽の授業受けてたら、みんなが「歌、上手いね」って褒めてくれて…。




そう言って、彼は照れくさそうに視線を逸らした。

これまでずっと、自分のことを「何の取り柄もない」と思っていたジソンが、
誰かに認められたことを素直に喜んでいるのがわかる。
 


ジソン
ジソン
そしたら、スンミンが誘ってくれてさ。




スンミン?

ミノは少し驚いた。


あの孤高のキム・スンミンがジソンを誘った?



ジソン
ジソン
ダンス部はハードル高いけど、軽音部ならすぐ楽しめそうかなって思って…。




ジソンはそう言いながら、少し嬉しそうに微笑んだ。



ジソン
ジソン
スンミニ、すっごい面白いね。




…スンミンが?面白い?

ミノは思わず軽く吹き出しそうになった。



ミノ
ミノ
どこが…?
ジソン
ジソン
え、なんかさ…すごい真面目そうなのに、意外と冗談も言うし、からかってくるし。
ミノ
ミノ
…へぇ。




ミノは曖昧に相槌を打ちながら、スンミンのことを思い出す。



そういえば、スンミンは軽音部だったな。

部員が少なすぎる、というかスンミンしかいなくて潰れそうになっていたけど、生徒会の権限でなんとか廃部を回避していた。


あの時、スンミンは「部活の存続は学校全体の文化活動の活性化に繋がるべきだ」とか、もっともらしいことを言っていたが。


そんなスンミンが、まさかジソンを軽音部に誘うとは。


あいつ、何考えてんだ?
変なこと考えてないよな?

 

でも、意外と…二人は気が合うのかもしれない。

何となくそんな気がした。



スンミンは賢いがゆえに何でも自分でできてしまう。

人に頼るなんてことをせずとも輝けた。



そんな完璧主義の彼に心の拠り所となれるような友達ができれば__



彼はきっとミノのことなんてあっという間に追い越せてしまう。



ミノはどこかもどかしい気持ちになりながら、公園の風に揺れる木々を見つめた。

プリ小説オーディオドラマ