偶々見つけたキッチンカーで鏡花がクレープを、私が珈琲を買い、それを海辺のベンチでそれぞれ口に運んでいた。
波の寄せる音に混ざって、時折幸せを纏った声が聞こえるような、そんな中でこれといった会話もなく、だ。
私の珈琲が残り一口になった頃、流石に何か会話をすべきかと口を開きかけたその時、一瞬早く鏡花が音を連ねた。
小さな口から紡ぎ出された音は、あまりにも突拍子がないように思えたが、きっと何かを思ってのことだろうと言葉を紡ぎ返す。
優しい彼が逝ってしまった時は、私が代わりに死んで彼が助かるのならそれでいいとも思った。
職人と言えた私の師が、
暗殺の術を教えてくれた彼が、
何時でも馬鹿みたいに明るかった彼が、
医療の術を教えてくれた彼が、
交渉というものを一つ一つ教えてくれた彼が、
もう一度立ち上がって笑ってくれるのならば、この命は惜しくないとさえ思った。
それも、結局叶わなかった。
私だけが生き残り、彼等は過去という棺桶に入れられ、数字という共同墓地に葬られ、そして誰もが忘れてしまった。
はっきりとした声が鼓膜を揺らし、酷く澄んだ一組の蒼が私の瞳を貫く。
その声には希望が、その瞳には光が宿り、私とは違う世界を歩いている事実を突きつけた。
その光が、希望が堪らなく痛かった。
それでも、鏡花が挫けずにその花を咲かせようとしているのを邪魔したくなくて、曖昧な言葉が紡がれた。
「そんなこと」。その先の鏡花の言葉を遮り、珈琲を飲み干して立ち上がった。
どうにか続きの言葉を聞かせようとするのは判らないフリをして、笑いかけた。
引き攣っているような、うまく笑えていないような感じがしたけれど、その感覚の全てを無視して歩き出した。
続きを聴いてしまったら、きっと期待してしまうから。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。