第16話

誘拐
115
2026/05/07 15:00 更新
 途中からは目隠しをされ、

 車に揺られ、

 そうして連れられた、

 薄暗い建物。


 その裏手に場違いな高級車を停め、

 シートベルトを外されると、

 後部座席の扉が開かれ、

 そして抱き上げられるようにして

 外気に触れた。


 決して軽くなどない体を

 抱き上げるのは、

 安心を与えるためか、はたまた、

 今夜のお楽しみ(デザート)に

 傷をつけたくないからか。


 肩を抱える腕から、

 膝裏に回された腕から、

 嫌に伝わる体温に、

 吐き気がした。


 不安定な地面を踏みしめ、

 小さな破片の散らばる階段を上り、

 最終的に、

 ベッドの上に降ろされた。


 相当古いものなのだろう。


 私一人が腰掛けるだけで

 ギシリと嫌な音を立て、

 不安を掻き立てる。
ここなら大丈夫だよ
 目隠ししてごめんね。

 と言いながら、

 布の擦れる音を立てて

 視界がひらける。


 どうやらここは

 廃病院のようで、

 ベッドがあるのも、

 それがかなり古びているのも、

 それが理由のようだ。
ここから動かないでね
部下に連絡してくるから

 ガチャリ、バタン


 所々のひびが目立つ壁に、

 扉を開閉する音が吸い込まれていく。


 ふと窓の外を見れば、

 憎いほどに美しい星空。


 あとどれくらいで、

 中也はここに着くだろうか。









悪い子だなぁ…
GPS(こんなもの)なんて付けちゃってさぁ
 パキ、という小さく

 乾いた音を立てて、

 小さな機械は

 破片となって

 散っていく。
(誰に僕の居場所を教えたかったのかな)
 まぁ、関係ないか。


 誰に投げかけるでもなく、

 独りごちた音は空に溶けた。










 ——一つ、無駄話をしよう。


 先程述べたように、

 この男の名は鈴木(すずき) 弘(ひろむ)。


 鈴木は、中堅企業の代表取締役社長…

 まぁ詰まるところ社長なのだが、

 それは表の顔である。


 では、裏の顔はというと、

 簡潔に言えばクズだ。


 そう、クズなのだ。


 あなたの名字あなたが既に掴んでいたように、

 毎夜の如く相手を変え、

 火遊びに興じる。


 そのうえ、

 違法薬物の売買を含む

 数々の犯罪行為を行い、

 命の危険が迫ったなら

 即刻鉛玉で撃ち殺す。


 相手の女が

 口外しようとすれば

 廃病院に攫い、

 口封じとして殺す。


 廃病院なのは、

 手術器具が揃っていて、

 素早く殺せるから。


 そんな理由で

 以前から利用していた廃病院と

 廃病院を含む山全体を

 買い取ったのだ。


 さて、画面の前の読者様方なら、

 おわかりいただけるだろう。


 鈴木 弘という男は、

 金と権力があり、

 己の欲に忠実な、

 実に厄介なタイプのクズである。


 そして、そんな

 厄介なタイプのクズは、

 よくその身を狙われる。


 しかし、この男は銃が扱える。

 そして、その他の武道も

 体得しているし、力も強い。


 なんなら、
 
 狙われる理由まで自覚済みだ。


 自覚しているのなら

 やめてしまえばいいものを、

 という感想は

 鈴木に関わる人間全員が

 抱えてはいる。


 それを言えないのは、

 やはり自分の身が可愛いから。


 力による暴政、

 それを耐え忍ぶ部下たち。


 現代日本の縮図の完成である。

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