陸軍隊長として荒れ狂う南の戦地セラム国で戦っていた彼は地面に倒れ込んだ
彼はついさっき運悪く地雷に当てられてしまったのだ。
体はもう動かず死というものがすぐ近くにあるのが分かる。
情けなさと怒りで目の前がよく見えない
どうすることも出来ず目の前の死を受け入れようとした時だ、ふいに自分の娘のミラのことと家族のことが頭に浮かんだ。
ミラは歌がとびきりじょうずで笑った顔が天使のように可愛い自慢の娘だ。妻が3年前に他界してから1人でミラをずっと育ててきた。そんな彼自分にとってミラは自分の命よりも大切な存在だった。
今すぐにでもミラに会いたい。
そう思って必死に体を動かそうとするのに体は思うように動いてくれない。少し動くだけで激痛が走る…
目の前の死は避けられないものだと確信した
ならばせめて最後にミラの声が聞きたい。
いつもの笑顔や、ミラの温もりに触れたい
そう強く願った時だ
不意に目の前が眩い光に包まれた
なにかに引き込まれていくような感覚がする…
何故だろう、少しも怖くないし、なんだか暖かい…
我に返ると、そこはとても広い花園だった。
色々な花や木々が見事に咲いていて、春の花から冬の花まで多くの種類がある。不思議なことにどの花も少しも枯れていない それどころか今咲きましたよといわんばかりな咲きっぷりだ。
花園に見とれていると突然後ろから声をかけられた
振り向くとそこにはとても可愛い少女が立っていた
はだの色は白く目は透き通った翡翠色、綺麗に手入れされている髪の毛が風に揺れるととても美しい。可愛いと言うより、美しいという言葉が良く似合う。
でも彼女の目の中は空っぽで何も無い
声にも抑揚がない。まるで感情のない人形のようだ
困ってそう聞き返すと、彼女は空っぽの目のまま答える
そう言えばと、さっき死にかけていたことを思い出す。
知らなかったのですか。と彼女は話し出した
難しくてよく分からないが、ここが魔法の世界ということはわかった。
そして彼は少女に、大切な娘がいることを話した。
そしいって少女が、自分の服に着いていた懐中時計を差し出してきた。
そう言って少女は彼の胸に手を当てなにかブツブツ言うと、手を離して言った
その言葉を聞くと…とたんに視界がぼやけた
気づくとそこは自分の家だった。
目の前には、妻も、ミラもいる。
周りを見るに、今は家族で夕食を取っているところのようだ。
やっぱり家族はいつでも暖かい
そんなことを思っていると、不意にミラが声をかけてきた。
そう
この歌だ、この声が聞きたかった、またみんなで笑いたかった…
ごめん…ごめんなぁ
最後まで一緒にいてやれなくて
でも大好きだから
彼はそっとミラと妻を抱きしめた。
家族の温もりを感じる瞬間
彼にとってその時間は何よりも幸せだった。
そう思い瞳を閉じる
ずっとずっとあわよくば自分のことを一時も忘れず覚えていて欲しい
でも…そんな事がなくても…自分が家族を愛していた。その事さえ伝わっていれば
気づくとまた戦地に戻っていて
慌ただしい銃声が聞こえてくる。
でもそんなことはもう気にしなかった
そうつぶやくと
彼はそっと目を閉じた
その頃少女はと言うと自分の屋敷で本を読んでいるところだった
そう言いながら花園に向かった
少女は新しく咲いたザルビアの花びらをそっと撫でた
そしてふわっと、、少しだけ目元を緩ませた
彼女は手早く守りの呪いをかけると、また、自分の屋敷への道を辿り出した
番外編 𝑒𝑛𝑑
(この小説では、このように本編以外でもちょくちょく番外編を挟みます!)
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!