コンコンコン
そろそろ5時になるころ、ノックが三回、ドアから聞こえてきた。
私が「開いてる」とだけ言うと、ドアの向こうの人は少しだけドアを開けて、ふりふりと小さく手を振ってきた。
甚平姿の謙杜くん。
私が浴衣の着付けができないと言ったら、手伝ってくれることになったのだ。
謙杜くんは中に入ってくると、『あなたの家、良い匂いする!!』と言った。声でかい。
私が家を出る時にお母さんが作ってくれた、白の生地に金魚が泳いでいる浴衣。
『高校生活を楽しんで』と言われて渡されたが、どこかに出掛けるほどの友達も居なかった私は、結局去年は着る機会がなかった。
謙杜くんが目を隠してうしろをむいているなか、私は服を脱いで下着の上から浴衣を着る。
裾長いな………こんなもんか。
謙杜くんは器用に帯を結んでいく。
こんなんじゃ私、女子力負けてるんじゃないか。
ー長尾ー
あなたはほんまに警戒心があるのかないのか………。
俺は後輩としか思われとらんやろうけど、俺にとってあなたは『女の子』。ただの先輩とは思わん。
胸元の襟を整える時、少しだけ彼女の肌に手が当たって意識した。
彼女は、何も感じないんだろうけど。
僕がここにくる前に急いで買った髪飾り。
真っ白であまり大きくないが美しいお花の髪飾り。
あなたに絶対似合うと思って、どうしても渡したかった。
僕が着付けした浴衣に、僕がしたメイクと、僕があげた髪飾り。
少し満足そうにしている彼女を見て、僕の独占欲が疼いた気がした。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。