第32話

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2022/03/07 23:00 更新

コンコンコン






そろそろ5時になるころ、ノックが三回、ドアから聞こえてきた。


私が「開いてる」とだけ言うと、ドアの向こうの人は少しだけドアを開けて、ふりふりと小さく手を振ってきた。



甚平姿の謙杜くん。



私が浴衣の着付けができないと言ったら、手伝ってくれることになったのだ。



謙杜くんは中に入ってくると、『あなたの家、良い匂いする!!』と言った。声でかい。



長尾謙杜
浴衣は?
(なまえ)
あなた
これ………


私が家を出る時にお母さんが作ってくれた、白の生地に金魚が泳いでいる浴衣。


『高校生活を楽しんで』と言われて渡されたが、どこかに出掛けるほどの友達も居なかった私は、結局去年は着る機会がなかった。


長尾謙杜
わーっ、可愛い!じゃー……と、とりあえず
(なまえ)
あなた
うん
長尾謙杜
ふ、服………脱いでもらっても良いかな
(なまえ)
あなた
うん
長尾謙杜
ちょーっ、ストップストップ!!!
(なまえ)
あなた
謙杜くんが脱げって言ったんだけど
長尾謙杜
あの、俺も男っていうか、もうすこしためらうはずというか……
(なまえ)
あなた
じゃあ、とりあえず浴衣は自分で着るから、帯やってもらっても良いかな
長尾謙杜
あ、うん、それなら……


謙杜くんが目を隠してうしろをむいているなか、私は服を脱いで下着の上から浴衣を着る。


裾長いな………こんなもんか。



(なまえ)
あなた
ね……着たので、お願いします
長尾謙杜
おっけ。まっかせろ!


謙杜くんは器用に帯を結んでいく。


こんなんじゃ私、女子力負けてるんじゃないか。












ー長尾ー




あなたはほんまに警戒心があるのかないのか………。



俺は後輩としか思われとらんやろうけど、俺にとってあなたは『女の子』。ただの先輩とは思わん。



胸元の襟を整える時、少しだけ彼女の肌に手が当たって意識した。


彼女は、何も感じないんだろうけど。




長尾謙杜
ねぇ、髪飾りとかある?
(なまえ)
あなた
ない
長尾謙杜
じゃあ、これ付けてよ


僕がここにくる前に急いで買った髪飾り。


真っ白であまり大きくないが美しいお花の髪飾り。



あなたに絶対似合うと思って、どうしても渡したかった。





僕が着付けした浴衣に、僕がしたメイクと、僕があげた髪飾り。







少し満足そうにしている彼女を見て、僕の独占欲が疼いた気がした。

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