どれくらい走っただろうか
紬はせっかく綺麗にしたにも関わらず、また走って髪をボザボサにしていた。
しかし何とか朧月茶屋に着いた。約束の時間の一分前だが…
入り口の前に茶屋の、従業員らしき少女がいる。年は紬より5つ、6つ下といったところで、茶髪のロングヘアを1つにまとめ、小柄ながら大きな箒で店の前の落葉を一生懸命掃いている姿はとても可愛らしい。
ーいきなり入るのもなんだし、従業員さんに声をかけよう
「あの、すみません…私、」
「きゃああああ!」
「えっ?!」
その少女は、紬が声をかけた瞬間、悲鳴をあげて箒を落とし腰を抜かす。
「いやぁー!山姥(やまうば)!うわぁーん、怖いよぉー!菊さん、菊さん!助けてぇ!」
「はぁ?私のどこが山姥ですって!?」
ついカッとなって怒鳴りつけてしまう。すると少女は、なぜか立ち上がり、紬に向けて手をかざす。
「幻覚を創造する精霊よ、この者に絶望の幻覚を見せよ!」
何かと思った瞬間、紬は、いつの間にか山の中にいた。
「え?え?ここどこ?朧月茶屋は?!」
恐怖と共に森を彷徨う。すると背後に気配を感じた。恐る恐る振り返ると…
「うわぁ!本物の山姥だぁ!」
するとその声に反応した山姥は元々恐ろしい顔をさらに醜いものにして彼女に襲いかかってくる。
ガブッ
そこから記憶がない
目が覚めると、見知らぬ天井が見えた。
ーまた、知らない所に連れて行かれた…さっき私、山姥に食べられたのかな…あれ、私…て、転生しちゃった?!
つーっと冷や汗が背中を伝う
つまり死んだのだ。あこがれの職場の目の前で
ー嘘…私の人生始まって16年、いや、正確には15年10か月、なのに…
絶望のあまり視線を落とすと、自分が布団に寝かされていることに気づいた。しかも上質なやつだ
ーこんな良いお布団で寝れるなんて、お嬢様に生まれ変わっのかな?ならありかもー。なんちゃって
「あ、起きた」
「へっ?!」
イケボだ。イケボが聞こえてきた。しかも男性のものではなく低い女性の声だ。
するといつからいたのか、じーっと無遠慮に見つめてくる。美少女がいた。前髪は長いが紺色のサラサラショートヘア、に深紅色の瞳。実に顔がいい
なぜか紬はドキドキした。少なくとも地元の村にはこんな属性の女の子はいなかった。
紬が脳内パニックを起こしている間も、彼女は無言でじーっと見つめてくる。
しばらくすると
スパーンっと襖が開き
「こーら!怜!突然店の前でぶっ倒れた奴を無遠慮に見てんじゃねーよ!」
「うるさい、看病だよ、看病」
「そんなので看病か!」
「菊に頼まれたから」
「そういう問題じゃねえょ、なんもしてねーじゃん!」
「じゃあ、観察…かな?」
「阿保!おめー布団にそいつを運んだらおとなしく店の方に戻れっつわれただろーが!」
「ちょっと待ってください、運んだって、この方が?私を?」
「んだ、おめー喋れんのか。そーだよ。怜…そいつがここまで運んでくれたー…」
「いゃぁぁ!」
絶叫
「こぉら!怜!そいつになんかしたのか!」
「何も、でもこの子軽かったよ、まぁ君、感謝するなら僕じゃなくて、瑠璃にね」
「る、瑠璃さん?」
正気を取り戻した。取り戻したというよりは、先程の会話の記憶が消えた感じだ。
「店の前で掃除してた子、倒れる前のこと覚えてない?」
「ああ、私を山姥とよんだあの…」
「へぇ、山姥?まぁ、お前髪ボッサボサだったしなぁ」
「それだけでですか…?」
「そーだよ、てかお前、紬と言ったか?山姥じゃなかろうと山から降りてきたことには変わんねぇんじゃなかったか?」
「村出身なんですよ!言い方!」
そういって突然入ってきた。女を見あげた。彼女は、荒っぽい気性に反してガーッリッシュな見た目をしていた。桃色のロングヘアをサイドハーフポニーテール。にしていて、瞳は先程のイケボ少女と同じく深紅色だ。どことなく顔立ちがにている。
「あ、君、噂の新入りの紬なんだ。じゃあ自己紹介しない?」
「お前にしてはまともな対応だな。えーっと俺からか、俺は、繭っていうんだ。一応ここの正式な従業員。年は18。よろ」
「繭は僕の姉だよ。で僕は怜。まだ見習い。17歳。よろしく」
「あの、一応確認しますけどここ朧月茶屋ですよね…?」
「何言ってるの?そうに決まってるじゃん」
「怜、ぶっ倒れた奴だ。記憶が欠けてるのかもしれんだろ、そーだよ。朧月茶屋だ」
「よかったぁ、私転生してないんですね…」
「転生?」
「私、朧月茶屋の目の前に出た瞬間山に飛ばされて山姥に食べられたんです」
「ああ、それ瑠璃の幻術、瑠璃責任感じて、僕達を呼んでくれたんだよ」
その言葉を聞いた瞬間
「起きたの?よかった!」
そういって寝室に入ってきたのは小柄な少女、先程の、外で掃除をしていた少女だ。そして怜たち曰く、紬に山姥の幻覚を見せた人らしい。
「大丈夫?つい山姥なんて言って、怖い幻覚を見せちゃってごめんね」
そっけない言い方だ。死んだかもとまで不安になったこっちの思いに対してその程度の謝罪か、と言ってやりたくなったが、さすがの紬でもこんな幼くて可愛らしい少女、下手したら幼女かも知れない子が困った顔で自分に謝ってくれているのに、これ以上厳しいことを言うなんて出来ない。
「大丈夫だよ、こっちも山姥なんて呼ばれるような身なり?しててごめんね」
「紬、この子は瑠璃、君のこれから下宿する寮のルームメイトで、朧月茶屋の見習い暦3年だから先輩に当たる方だ」
「よろしくねー紬ちゃん、瑠璃のことは瑠璃先輩って呼んで、敬語でしゃべってくれても…いいんだよ?」
「…っよろしくお願いします、瑠璃先輩♡」
ーす、すっごく可愛い!全て許そう、山姥と呼んだことも、食べられた幻覚を見せられたことも全て許す!
「これがお仕事をするうえでの年下の先輩ってやつですね!」
今宵道ではその仕事に努めている暦が長ければ年下でも、年上の人に先輩として敬われる事がある。瑠璃の見た目的に9、10歳くらいに見えるが、見習いになれるのは10歳からだし、その上自分よりも働いている暦が3年長いとなれば13歳くらいだろう。そうは見えないが…
そんな事を呑気に考えている紬に対して、周りの人空気はカチンと凍りついていた。
「あ、あれ?皆さん…どうしたんですか?」
「うう…ひどいよ紬ちゃん…」
「え?る、瑠璃先輩?!」
「あのなー…紬、よく聞け」
「はい?」
「紬、お前、菊から聞いたけど今年で16歳といったよな?」
「そうですけど」
「そいつ、年上だ」
「はい?」
聞き間違いだろうか、そうだ聞き間違いだ、そうに違いない、そうであってほしい
「や、やだー繭さん、何の冗談ですか〜?」
「冗談じゃねえよ!だいたいこいつがこんな泣きそうなのも、おめーがガキ扱いしたからなんだぞ!」
「瑠璃、気持ちは分かるけどもう慣れたら?」
「いやだもん!瑠璃17歳だもん!誕生日過ぎてるから場合によっては紬ちゃんと2つ違いにもなれるもん!」
「そーだね、瑠璃ちゃんいい子いい子。紬、瑠璃は僕と同い年だよ」
沈黙
「え、えええええ?!」
「そんなに驚かないでよ、ほら、瑠璃よく見たら大人っぽい顔立ちしてるでしょ?し、身長はまだ伸びるもん」
「見習いになってから1センチしか伸びてねー奴が何いってんだよ」
「繭さん、ひどい」
紬は言われたとうり瑠璃の顔をまじまじと見る。相変わらず美少女だが、見れば見るほど子供っぽい顔のパーツが目立ってくる。かわいいから良いのだが。
「どう?紬ちゃん、瑠璃の顔。大人っぽいとこあったでしょ?ねぇ、あったよね」
「…童顔なのは私も同じですから、気にしなくていいと思います」
「え…」
「ギャハハっ、紬おめー、気遣いの嘘もつけねー性格なんだな!」
「な、正直で何が悪いんですか!」
「別に悪いとは言ってないけどよぉ…まぁいいやお前菊に教育してもらう甲斐がありそうだ」
「うっ、それ行くときも出会った人に言われました」
「そう言えば、紬、まだ直接菊に挨拶してないよね?」
「そう言えばそうだな、おい瑠璃、客の間に菊を呼んでこい」
「私が直接行ったほうが…」
「嫌、客の間で、挨拶をするってのが朧月茶屋の伝統なのさ、良いから機嫌直して呼んでこいよ、瑠璃」
「むぅー瑠璃の大人っぽい所いつか見せつけてやるんだからね!」
その言葉を言い残して瑠璃はその部屋から去っていった。
「俺も客の間の準備してくるよ、お前ら二人で仲良くしてろよ」
「ええ、ま、繭さん!まってくださいよ!」
「何だ、どうかしたのか?」
「瑠璃先輩も繭さんもいないってことは…れ、怜さんと二人きり!?」
「そうなるよな」
「何、紬。僕と二人切りが嫌なの?」
「あ、え、そ、そういうわけじゃ…す、すみません何でもありませんっ」
「そうか?ま、怜そいつに変なことすんなよ」
「ん、」
そう言って繭も去っていく
「はぁ、姉さんは僕をなんだと思ってるんだろうね…」
相変わらずの無表情でそんなことを呟く怜。
一方紬は
ーああ、怜さんと二人切り…なんで私あの時繭さんを呼び止めちゃったんだろう、怜さんといるのが嫌じゃないのに…む、むしろ嬉しいのにな…て、ていうか、なんか会話!どうしよ、えーとっ
「れ、怜さん!」
「ん?」
「きょ、今日は天気が良いですね…」
「それ、会話が思いつかない人の定番ゼリフ…」
「ううっ」
ーし、失敗しちゃったぁ!呆れられてるよねなんか、
でも、あのイケボで呆れられるのも悪くないかも…って何考えてんの私!
「紬…」
「は、はいっ?!」
「紬さっきから薄々汗かいてるけど大丈夫?熱でもあるんじゃいの?倒れたんだし」
「だ、大丈夫ですよ?バカは風邪ひきませんので」
「自分で言うなんて…。それに顔も赤いし、熱はかろっか」
「へ、ど、どうやって?」
「こうやって」
コツ…
「…っ」
ーなにこれ
いくら何でもこんな測り方する必要なかったと思う。
お互いのおでこを合わせる測り方を
To be continued…












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。