昨日退院した私は、早速教室に入る。
他のクラスメイトはそこまで驚いていなかったけれど、京介だけは目を見開いて私の方に歩いてきてくれた。
カグラさんっていうのは、カグヤさんのお兄様。
最初は一ヶ月は安静にしなきゃならないって話だったみたいなんだけど、ある日を境にこれ以上ないくらい不自然に悪い所が消えたんだそう。
「退院しても良いけど、安静にするのに代わりはないから、無理はしないようにね」って言われてしまった。
…そんなに酷かったのだろうか。
正直、治ったってことは普通に倒れただけだと思いたい。
ほっと胸を撫で下ろし、そう言ってくれる京介。
そんなにも心配してくれた、ということだろう。
そう言いながら席にと促してくれる京介。
番号順から席替えをしてしまい少しだけ離れてしまったけれど、それでもついてきてくれた。
そして、着席をして、朝のホームルームが始まる。
先生は入ってくる時、少しだけいつもとは違う雰囲気だった。その理由はすぐに明かされることとなる。
今日は、“転校生”がやってくるらしい。
そういえば、マサキも転校生だったんだっけ。
ちなみに、マサキは…と言えば、多分もう皆と…蘭丸とも仲良くなってると思う。蘭丸から直接聞いたんだ、「意外と良い奴だ」、って。
ママから聞いた話、マサキのご両親は会社をやっていたのだけれど、倒産してしまったらしい。それでマサキを育てることが出来なくなり、その結果お日さま園という孤児院に預けられた。人間不信になったマサキを何とかしたい、少しでも笑顔になってほしい、…そう思った瞳子さんやママ、それにお日さま園の方々が、マサキをこの雷門中に入学させることに決めた。サッカー部に入ったのは彼の意思なんだそう。
元々やってる所は見ていたけれど、そんなに深い状況の中接していただなんて知らなかった。
更にママ情報によれば、クロこと黒剣甘力は彼に膨大な気遣いをしていたらしく、彼もまた少し心を開いてたのだそう。私のことを言っていたのかどうかはさておき、…クロが裏でそんなことやっていただなんて信じられない。今までなら。けど、昔の記憶や今の状況を考えれば、独りだと思っていたマサキに気を遣う所は容易に想像出来てしまった。
そんなことを思いつつ、教室の前に入ってきた少年に目を向ける。
…私が知っているその少年は、とても緊張しているような感じで声を上げ始めた。
思わず応援したくなってしまう。
大勢の人を目の前にパニックになってしまう気持ちはよくわかるから。
影山輝。
彼のことを、私はよく知っている。
その間にも自己紹介は進んでいき、結局、輝は私の隣の席に座ることに。
輝は、影山零治さんの甥。
パパの師匠の甥っ子で、たまに一緒に遊びに行ってる。図書館とかテーマパークとか行ったり。
もちろんパパもママも一緒だけどね。
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それから、暫くの放課は、転校生ということで多くの人に質問されていた。私も聞きたかったけれど、お医者様にはまだ安静に、と言われているので人混みには迂闊に近づけない。ということなので、授業以外は殆ど京介の所に避難していた。
ようやく収まったと思えば、もう既に帰りの会が終わってしまっていた所だった。
そんな言葉が聞こえてきて、思わず振り向いてしまう。
そう言い、こちらに身体ごと向けてくれる影山さん。
クラスメイトの皆もチラホラとしか残っていない中、輝が「あなたの朱桃ちゃんの下の名前!」と声を掛けてくれる。
笑顔でそう言ってくれる輝。
そんなこんなで、私達は3人で部室へと向かった。
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部室
それから、部室には先輩や天馬達、それに先生達も揃っていた。そんな中、輝を監督達の前に促していく。
そのしっかりとした返事に対し、「中々元気が良いじゃないか!」と先輩達には好印象な様子。
苗字を聞かれた途端、狼狽えてしまう輝。
視線を泳がせながらこちらを見てくるので、再び「頑張れ」というメッセージを送っていく。
……あ、そういけば有人達はなんか色々あったんだっけ。パパも詳しくは話してくれなかったけど、あっきーとかと色々あったって言ってた。
…だから、こんなにも狼狽えているのだろうか。
でも、それなら安心してほしい。
守や有人、それに春奈なら…そんなことで輝に偏見を持ったりしないと思うし、ここに来てくれたということだけでも嬉しい筈だもん。それに、それでもここに来てくれたということは、それだけの覚悟があったということ。
輝にそういえば、輝は意を決したような顔になり、口を開く。
皆は、苗字を言ったことに満足そうな顔をする。
しかし、大人3人は唖然とした目で彼を見つめた。春奈先生なんて、持っていたバインダーを落としてしまうほど。
守の信じられない、と言った声を聞くと、下を向いて固まってしまう輝。
春奈先生も守監督も、静かに有人コーチを見守る。
有人は一言、「そうか」とつぶやいた。
その顔には、意外にも穏やかな表情を浮かべていた。
そして、有人はさらに言葉を紡ぐ。理由を聞く質問。
目元は隠れてしまっているが、優しげな表情を浮かべているのが手に取るように分かる。
その言葉に再び俯く輝だったが、なんとか口を開いた。
段々と小さくなっていく声。
哀しそうな声だけど、わざと大きな声をあげて笑いながらそう言い放つ輝。
「それを言ったら私はどうなるんですか、我が父は彼の立派な弟子だったと聞いておりますが」、と言いたくなるのをぐっと堪える。
礼をしながらそう言い放ち、そのまま踵を返して去っていこうとする。
しかし…
……それを、守監督が止める。
「へっ…?」と振り向けば、そこには堂々と立っている守の姿があった。
そのまま輝の元まで歩いていく守。
一瞬意味を惑う輝だったが、すぐに大きく真剣な表情で「はい!」と口を開いた。
キョトンとしながら有人を見つめる輝。
春奈先生と守は納得したような顔を見せるし、私もパパから聞いていたことだったのでスッと理解できた。
ハテナを浮かべる輝に、有人と守が口を開いた。
輝は、ぱぁぁぁああっと笑顔を浮かべてそんな礼をした後、こちらに振り返って再び礼と自己紹介をする。
皆、影山零治のことは…「そういうこともあるよね」くらいに捉えることにした、ということだろうか。
特に深掘りはせず歓迎される…かと思いきや、、、
と、京介の質問に頭を回転させている輝。
困ったような笑みを浮かべる輝。
はぇぉ…2か月しか蹴ったこと無いんだ。…ということは、私の方が先輩だっ✨️
先輩方も意外そうな顔を見せる。
蘭丸のその指摘にも、動じず「へへっ」と返すマサキ。
おぉ、聞いていた通りだいぶツンがデレてきている兆しを感じられる絡みですね。
それから私達は、練習する為にグラウンドに向かうことになった。




























編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。