子供の時から、私は
何不自由ない暮らしを与えられた。
「お嬢様、旦那様と奥様は
現在イギリスでお仕事をなさっています」
「お嬢様の5つの誕生日、それと
クリスマスに一回帰国なされます」
大きな屋敷に、ポツンと座り
蝉が鳴く夏も、雪が降る冬も
私は、ただただ広いだけの屋敷で
過ごして来た。
小学校に上がると、同い年の友達が
たくさんできた。
正確には、そう思っていた。
「いつも、娘と遊んでくださり
ありがとうございます」
「こちら、少しばかりの気持ちです」
私は、たまたま覗いてしまった
お父さん達のやりとりに、ひどく悲しみを
覚えた。
それからは、友達と顔を
合わせるのが怖くなり…
中学校に上がると、内気な性格へと
変わっていった。
私は、普通の生活がしたかった。
それでも、やはり物を与えられてきた
だけに、知らず知らずに世間に
鈍くなっていて、周りと違うことは
恐ろしいことだと気づくのが、少し
遅すぎた。
上手くいかない学校生活。
みんなと友達になりたいだけなのに、
少しもミスは許されない。
私は、自分が憎い。私は、ばかだ。
頭がそう言ってるのに、ちゃんと行動
できない・・・
消えたい、消えたい、消えたい・・・
「どうした?悠里」
「何か不満があるのかしら?」
「なら、ここの学校じゃなくて
別の学校に通おう」
「ちょうど、春からできる
新しい学園があるんだ」
「来なさい、悠里。あなたは、
私たちの仕事を継ぐのよ」
「他の子達と仲良くなんて
しなくていいわ」
これでいい、私は最初から
何も望まないで、お母さんとお父さんの
言うことだけ聞けば良いんだ。
それが、正しいんだ。
高校も中学と同じ学園から
上がっただけの、所へ行った。
つまらない生活。
でも、私だけ目立つことなんて
ここに入ったら、一度もなかった。
みんな、財閥やら御曹司で
溢れている学校だったから。
そんなある時、下校途中で
川の流れを眺めながら時間を潰していると
じゃれあいながら楽しそうに会話する
二人の男子学生が見えた。
すごく楽しそう。
キラキラして光って見えた。
その時、私は
信じられないものを目にした
その男の子は、歌を
歌い出した。
しかも、どこでも聞いたことのないような
不思議な歌い方。
私は、一瞬で心を掴まれた。
何とも言えない、あのガサガサな声に
テンポも合ってないのに、あんなに
楽しそう・・・
いいな、私も、あんな人になりたい。
今思えば、あれが京極君だったんだね。
私は、もう一度自分を変えたいと
思い、お父さんに言って
高校を変えてもらった。
その高校は、学園に居た頃とは
違い、賑やかで活気があふれる場所だった。
だけど、やっぱり私の人生は
何度やり直して学校を変え、
自分を見つめ直しても・・・
私が掴もうとしたものは、全部
触れられず消えていってしまう。
今回も同じ・・・
ずっとそうなんだ。


















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!