1週間が始まった月曜日。
教室の窓から大河と椿は空を見上げていた。
「あいつら出発したか」
「今朝ね、お互いに“行ってきます”て言い合って家を出たよ」
「そか、まだまだ暑いけど空は高くなったな。秋の空だわ」
「そだね」
元気のない大河の背中を思いっきり叩く椿。
「なに、びっくりした!」
「ははっ、俺たちはここの学業に専念しようぜ」
椿なりの慰め方をして、手を振り席に戻って行く椿だった。
学校内では新達と会うことは少なかった為、感傷的になる事はないと思っていたが、至る所で爪痕を見る事になる。
グランドで転ける新。
キスをした螺旋階段や、空き教室、そして桜の木の下。
中庭で長椅子を怒りに任せ壊したり。
急に背後から抱きつかれたり。
慣れるまで、思い出すたび寂しくなるのだろう。
椿の言う通り、学業に専念した方が良さそうだと思った。
新と奏のファンは多く泣く生徒や休む生徒まで出てきており、あちこちで話題になっていて、常に二人の名前が耳に入る。
そんな大河と横原の心情を知ってか、新と奏の母親達は容赦なく課題を詰め込んでくる。
授業の課題と併用のため、寮に帰る暇もなく最近は佐藤家の屋敷から通学する事が増えた。
夏合宿の時は別の部屋だったが、今回は同じ部屋で寝起きしてるため、寂しさも半減しているのは確かだ。
横原など初めてのTOEICで、見事に目標900に近い点数を叩き出し新の母親を喜ばせた。
大河も模擬テストで横原と同じM大医学部の合格圏内の判定を出したが、まだ2年のため大学選びの参考までの結果となる。
M大の施設を含め教授達も魅力的な大学だったが、奏の母親はその上の国立大を勧めていた。
ある日、授業が終わり佐藤家の屋敷に帰ってきた。
鞄を机に置くと大河は襖を開けて日本庭園のような庭を眺めた。
青かった葉も色づき始めており季節が進んだ事に今、気付くほど突っ走ってきたようだ。
窓を開けると、どこからか金木犀の香りが風にのって大河の鼻を掠めた。
「がちゃん、どした」
一緒に帰ってきた横原が声を掛けてきた。
「この間まで暑かったのに季節が進んだな、と思って」
そう言って指差した先にまだ小さな紅葉の木があった。
「おっ、色付きだしたんだ。もうすぐ冬が来るか」
「冬になると、すぐ卒業だね」
「そうなると、がちゃんの受験戦争はすぐ始まるぞ」
「だね、言われるとなんか怖いもんだね」
普通に会話はするが、最近大河が笑っていない事に気づいていた。学業に専念してるからだと思ったが、どうやら感情を出さないようにしてるようだった。
「久々に対戦ゲームしたいから付き合え」
「いいけど、いつの間に持ってきたの?」
「んな事、気にするな!着替えたら始めようぜ」
大河が窓と襖を閉めると、着替え始める二人だった。
休日に外出に誘っても寮の部屋に籠り出ようとしない大河の息抜きとして、屋敷にゲームを持ち込みさせて貰った。
少しでも気分転換になれば良いのだが、と思いながら。
横原のパソコンから受信音がした。
オンライン通知だったので繋げると、久々に見る新と奏の顔が写り出した。
第一声が奏で「よこ!なんで裸なのっ!」だった。
「着替えてる最中だったんだよ」と返事をしたあとシャツを羽織った。
ノート型パソコンを明るい窓際に持ってくると
「あれ、俺の家に居るの?」と新の声がした。
「そうだよ。お前らの母ちゃん課題を詰め込んでくるから寮の門限に間に合わないんだわ。だから泊めて貰ってる」
「じゃ、大河くんも居るんだ」
「居るよ、あいつも着替え中だ。今呼ぶから待て」
「横原くんのあとに大河くんに繋げるつもりだったんだ」
「そか、ま、二人とも元気そうだな」
久々に見る二人に目尻を下げて笑う横原だった。
「あ、きた。がちゃん、こっち!」
着替えを終えて来た大河に“おいで”と手招きをする。
パソコンの画面を見た大河は目を見開いた。
「学校どうしたの」
「第一声がそれ?」
画面の向こうの二人が顔を見合わせて笑っている。
横原の隣に座り改めて画面をみる大河。
「今日は休みなんだ。今頃ならよことがちゃん居てると思って」
「うん、有難う。二人とも、そっちでの生活は慣れた?」
新は笑顔で答えた。
「生活様式が違うからね、戸惑う事多いけど、みなちーと一緒だし大丈夫だよ」
ねっ!と奏と笑い合っている。
「あのね、今、驚くくらい頑張ってるから、春頃には報告出来るかも知れない」
「嬉しい報告なんだね」
「ふふ、多分ね。ところで大河くん疲れた顔してる。無理してるんでしょ」
「めざといね。さすが、新だ」
横原が割って入った。
「言ってやって、新。今からこんなんじゃ、近いうちに倒れそうでさ。俺が何言っても聞かねーし」
意外だ、という顔をする大河に「自覚なしかよ」と呆れる横原だった。
「わかった。あとで説教する」
なんか怖いな、と肩をすくめた大河だった。
何でもない会話のあと、横原とゲームをして気分転換が出来たのもあり、身体に篭っていた力が抜けたようだった。
「よこ、気遣ってくれてありがとね」
そう言った大河には久々に笑顔が戻ってきていた。
「あいつらが連絡くれたから、だろ?あとで新からの説教もあるし楽しみだな」
大河の笑顔にホッとした横原だった。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。