第72話

休暇
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2024/10/22 08:00 更新
新と奏は年末年始、卒業式がある2月末にも帰国しなかった。
春頃には目処がつくと言っていたので、心配はしていなかった横原と大河だった。

3月になり、もうすぐ春休みが来る。
横原は卒業したため、大河は寮を出るために退去の準備を始める。
新と奏の部屋を一つの部屋にリフォームされて、いつでも住めるようになっていたが、部屋の主が帰国した時に、と思っていたので一度も見に行かなかった。
いつ帰国するか分からないので、先に入居する準備を始めたのだった。


共有スペースであるリビングダイニングには、L字に置かれたソファーにテーブルが一枚窓合わせてセットされており、ダイニングテーブルもアイランドキッチン近くにセットされていた。

食器も揃えてあり、すぐに生活が出来るようにしてくれている。
プライベートスペースには、いままで使用していたソファなどの家具や電化製品がリフォーム前と同じ様に置かれており、キッチンを除いた部屋がそのまま小さくなっただけの見慣れた部屋になっていた。

寮にあった全ての荷物を運び終わり、片付けていると下階に住む運転手の奥さんが夕食を持って来てくれた。
今後、連絡がない限り、朝食と夕食は用意してくれる、とのことで有り難く甘える事にした。

“身分不相応だ”と思う横原と大河だが、拒否も出来ないので新の母親に素直にお礼を言うのだった。


夜遅くまで時間をかけて、ようやっと片付けが終わった。
横原がソファーの位置を変えたいと言うので奏側のプライベートルームに入り、横原が買って持ち込んだソファーベッドを移動させた。
ベッドとして使用するには置いてある場所が悪かったからだった。
背を倒すと大人二人は軽く寝転がれるスペースになり、仮眠をとるには充分だった。

「なかなか、いいね。ソファーベッドも」
「だろ?買って正解!今日はここで寝かせてやるよ。枕持ってきな」と、自分の買ったものを褒められてご満悦な横原だった。
奏側のプライベートルームにあるソファーベッドに、お互い背を向けて眠っている横原と大河を微笑ましく見ていた人物が居たが、本人達は全く気付かずに熟睡していた。


新と奏は早朝に帰国し、マンションに帰ってきた。
実家に連絡すると「昨日引っ越しを終えた」と聞いたからだ。
新は寝室を覗いたが大河は居なかった。
慌てて奏側のプライベートルームへ向かうと、奏が唇に人差し指を立てた。
静かに覗くと探していた大河と横原がソファーで眠っていた。
そっと扉を閉めて、ダイニングのイスに座った二人は横原と大河を驚かせようと帰国を黙っていたのだった。

「あらちーは時差ボケ大丈夫?」
「うん、しっかり寝たから」
「じゃ、このまま起きてようか。シャワーあらちーのとこ使わせてね」
「久々に湯船に浸かろうか。用意してくるね」
新は立ち上がり浴室に向かう。

奏は冷蔵庫を開けて朝食に食べれる物を探した。
前以て知らせていたので、サンドイッチ用のパンや生サラダなどは4人分用意されていたが、あの二人は気付いてなかったのだろうか。
わかっていたら寝ないで待っててくれただろう。
そう思うと一人笑った。

「一人が嫌ならどっちかの寝室で寝たらいいのに」
お湯で濡れた手を拭きながら新は言った。

「寝室だから気を遣ったんじゃない?」
「だからソファベッド?」
「がちゃんが行き詰まった時、よく一緒に居るみたいだしね」
「…….なんか複雑」
少し拗ねたように呟く新に「朝食の準備しとくから」と先に浴室使うよう勧めた奏だった。
「うっ、だっきゃっ、わあっ?!」

リビングに入るなり奇声を発したのは、朝の身支度を済ませた横原だった。
幽霊でも見たかのような驚き方で、壁にへばり付いたまま動かなくなった。
誰も居ないはずのリビングに人間が居たらそうなるのは無理もない。
反応が面白くて仕方のない奏は、足音を立てずに近づき、後ろから横原の耳に息を吹きかけた。
「っ!!!!」
声にならない声で身体を硬直させた。 

「驚かせてごめんね」
くすくす笑いながら、そっと背中から抱きついた。

「よこ、、ただいま」
「…….え?」
混乱する中、背中に感じる体温に幻ではない事だけは理解出来たが、誰?とおそるおそる振り返ると、笑顔の奏がいた。
「………いきてる?ほんもの?」
「生きてる本物だよ。勝手に幽霊にしないで」

腰に回ってる奏の腕を掴みゆっくりと離すと、奏の身体を壁に押し付けた。

奏の頭の先から足先まで確認するように何度も見ると、大きなため息をついた。
「びっくりした…..心臓止まるかと思ったわ」
「驚かすのが目的だったからね」

にっこりと笑う奏に横原は勢いよく口付けた。
唇の暖かさや柔らかさ、甘さは間違いなく奏のものだった。
横原が奇声を発してる頃、ソファで眠る大河に遠慮なく飛びついた新。
その衝撃と重みでまつ毛をあげた大河だが、なにが起こったのか理解できず、瞬きを繰り返している。

「ただいまっ!大河くん!」

寝ぼけている大河は「うん」と返事だけすると、また瞼を閉じた。

「相変わらず起きない人だね」
呆れながらも大河を跨くと、耳にキスをして甘噛みしたあと囁いた。

「大河くん起きて相手してくれないと泣いちゃうよ?」
跨ぐ新の両脇に腕を通して胸に抱くと、コロンと寝転がせた。
新を抱いたまま、しばらく寝息を立てていたが急に身体を起こした。

「え?え?あ、あら、た?」
「ふふっ、目が覚めた?」
大河の手が新の頬に当てられ、その手を新の手が包み込んだ。

「ただいま」
「あ?えと、おかえり?」
「うん。ずっと、大河くんに会いたかった…….」
そう言って新も身体を起こすと大河に抱きついた。

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