第73話

現実
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2024/10/23 08:00 更新
誰かを抱いている感覚はある。
誰なのか分からないまま嫌悪感が全くないのをいい事に、身体が覚えている抱き慣れた感触に安心した大河だった。
胸に抱く誰かの柔らかい髪の感触や匂い、声に覚えがあり、答えが出ると身体を起こしていた。

「え?え?あ、あら、た?」
「ふふっ、そうだよ。目が覚めた?」

目の前の新が幻かと思い、そっと頬を触ってみた。
実体を感じたあと、包み込んでくれた新の手指の暖かさで夢でもない事が理解できた。

「ただいま」とにっこり笑う新に、まだ意識が覚束ない大河は「あ?えと、おかえり?」
とだけ、なんとか返せた言葉だった。
そんな様子を見てくすくす笑いながら

「うん。ずっと、大河くんに会いたかった…….」
そう言って新も身体を起こすと大河の首に腕を回し抱きついた。

「とりあえず、起きて。話はそれからね」
軽く触れるだけのキスをして大河から離れた。
大河の意識も覚醒すると、4人でテーブルを囲む。

「横原くんも驚いてくれた?」
にこやかに問う新に

「驚くも何も、何が起こったか分からんかったわ。第一、このマンションの部屋で他に人が居る事にビビったっての」
その驚きと怯えを直接見た奏はクスクス笑う。
そんな奏を軽く睨み
「こんな心臓に悪いドッキリは今回だけにしろよ」
とだけ言ってため息をついた。
「うん。もうしない」と素直に言う事を聞く新だった。

「じゃ、奏が用意してくれた、サンドイッチ食べようか。久々だね、こうやって食べるの」
そう言って大河はコーヒーを用意しに立ち上がる。
楽しそうにする新と奏を見た横原は、二人のイタズラを責めるのはやめようと思った。
コーヒーを持ってきてくれた大河にお礼を言って近況を話しながら、にぎやかに食べ始めた。

「よこ、卒業式間に合わなくてごめんね」
「ん?いいよ、それは。でも今まで何してたのよ」

横原の問いかけに奏は新を見た。
新に頷いてみせてから横原に向き直る。

「色々やる事が多くて。手間な事もあったから時間かかってしまって全然帰れなかったんだ」
「まあ、海外だからな、勝手も違うだろうし大変だったな」
横原はそう言って二人を労った。

「今回いつまで居られるの?」大河がサンドイッチを飲み込むと二人に聞いた。

「2週間ほどかな。次は6月後半からの夏休みには帰れると思うよ。でもがちゃんの邪魔になるかな?て思ったりしてる」
奏は素直な気持ちを伝えた。

「そんなの気にしないで帰国しておいでよ。俺だって二人に会いたいし、息抜きにもなる」
大河は気を遣ってくれる二人に笑ってみせるが笑顔が硬いな、と思う奏だった。

「ね、がちゃん。今からそんなに気を張ってたら保たないよ?受験は長丁場なんだから」
「うん。わかってるんだけど….」

今まで黙っていた新が大河を見据えた。

「大河くん。夏休みに母さん達が作ったスケジュール思い出して。1週間ごとのスケジュールを終えたら週末遊んで息抜きしたでしょ。合格ラインの学力を身につけるのが学習の目的なんだから、やみくもに勉強したってダメだよ」
ミルクたっぷりのコーヒーを飲み、続ける。
「勉強をやらざるを得ない状況をみなちーのお母さんが作るけど、クリアしたら受験生だって遊んでいいんだよ?」

変わらない人懐っこい笑顔を大河に向けた。
大河も自然と釣られて笑う。

「そうだね、確かに力が入り過ぎてたかも」
柔和な穏やかな大河の笑顔が戻っていた。
そんな大河を見て、横原と奏はホッとしたのだった。
「さすが新だな、がちゃんの緊張を瞬時で解いちゃって」
横原がミルクたっぷりで白くなった冷めた元コーヒーを飲んでいる新にそう言った。

「横原くんからも行き詰まってるの聞いてたから、何とかしてあげたいって思ってたしね。緊張解けてたらいいけど」
使い終わった食器を奏と片付けている大河を見ながら

「解けてるよ、笑い方がいつものがちゃんだ」
「ならよかったけど、大河くんの事よく見てる横原君、少しムカつく。しかも一緒に寝る為にソファベッド買ったんでしょ?」
拗ねて見せる新にイタズラっ子のような笑い方をした横原だった。

「おまえが居ない間、ちゃんと見ててやるよ。浮気しないようにもな」
「大河くんそんな事、絶対しないもんっ!」
テーブルをバン!と両手で叩いた新に、声を出して笑う横原だった。
キッチンにいる奏と大河は、二人を不思議そうに見ていた。
朝食が終わると10時にカーテンなど必要な物を買いに行く約束をして、新はプライベートルームを覗いた。
リフォーム前の部屋を残したかった新は、縮小されたとはいえ希望通りの部屋に満足だった。
大河との思い出のある部屋を消したく無くて、母親に頼んだのだった。
白で統一していた家具に囲まれ、自分の部屋に帰ってきた実感が沸いた新。
冷蔵庫を開けると、好きなブレンドティーが冷やされていて、はちみつティーの方を2つのガラスコップに注ぎ、ローテーブルに置く。
そしてソファーに座ると大きくため息をついた。

「さすがに疲れたでしょ?少し寝る?」

大河は新の隣に座ると、つかさず大河の太ももに跨るように座り抱きついてくる新。

「大丈夫。ふふ、ほんものの大河くんだぁ……会いたかった」
大河の首元に唇を寄せてくる。

「俺も会いたかった、ずっと帰ってくるの待ってたよ」

新はそっと大河の唇に自分のを重ねた。
口腔内で舌を絡めあう深いキスを続け、久々のキスに夢中になる二人だった。
お互いの唇が離れると、新の妖しい光が灯る瞳で大河を見上げた。
大河はふっと笑うと新を抱き上げ、二人だけの寝室に向かった。

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