もう少しだけ。そんな私の儚い想いを目の前の彼がことごとく砕いて見せた。
先輩の服の袖を掴んだ私の手が彼によって呆気なく解かれてしまった。
行く先を無くした私の腕は、儚く地面へと崩れ落ちた。ぼう然と先輩が私の求めていた本を取ってくれるのをただただ座り込んで待つしかできなかった。
あれ、私………何してるんだろう。
手を差し伸べてくれるかな、なんて微かに期待を抱いてみたが、そんな私の期待は意図も簡単に断ち切られてしまう。
先輩はそっと私の肩に手を置き、「じゃあそれカウンターに持ってきてね」と告げると、淡々とした足取りでカウンターへと戻って行った。私を一人置いて。
涙で視界が滲むのが分かった。
好きという気持ちの拠り所を無くした涙が、一粒一粒本の表紙へと落ちていく。どうして、もう……分からないよ。
こうやって私の想いを突き放すなら、なぜキスなんてしたんですか。心が痛々しくそう叫んでいるようだった。
先輩から“佐藤さん”と苗字で呼ばれるのは一体何時ぶりだろうか。どこか気まずそうに名前を呟いた彼に、思わず矢を打たれたような衝撃が走った。
―――いつも通り“あなたちゃん”とは呼んでくれないんですね。
なんてそんな事口に出来るはずも無く、私の瞼には再び涙が滲み出した。
図書室を後にする際、確かに先輩は私の背中にこう呼びかけた。
先輩が口にしたその「ごめんね」という言葉は一体何に対してのものだったのか。それを考える余裕は今の私には持ち合わせていなかった。
………私は逃げるように彼の言葉を無視し、図書室を後にした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。