第78話

優しいキミへ
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2018/07/31 10:43 更新
 あれから私、少しでも大人になれただろうか。桜の花びらが一枚舞い落ちる中、私はふと呑気にそんな事を考えていた。

 2年前。いや、3年前と言った方が正しいのだろうか。この場所で、この学校で……私は恋をした。有岡大貴という少し変わった優しい先輩に。
 今頃先輩は、どこで何をしているのだろう。突然現れ突然いなくなった彼の事を、今でもたまに思い出してしまう私がいた。
圭人
圭人
卒業おめでとう、あなた
あなた
何言ってんの? 圭人だって卒業したくせに
 そう、私達は今日卒業した。色んな思い出に包まれたこの学校を、私の大好きな仲間達と一緒に。
 3年前、私と圭人の隣にはもう一人幼なじみがいた。

 中島裕翔。彼女が出来てからと言うものの、すっかり私達から離れていってしまった彼。会話は変わらずだったが、一緒に行動する事などほとんど無くなってしまった。


 圭人だって本当はいつまでも私なんかとは居たくないはずだ。けど、彼は優しいから。

 私を一人にしたくないと変わらず一緒に居てくれている。それは、彼を振ったはずのあの日からも変わらなかった。
 大貴先輩がいなくなってから、私と圭人はある約束を交わした。もしも卒業までに彼が現れなければ、圭人と結婚する事。

 彼の真っ直ぐな想いも、彼の人間性も理解しての決断だった。彼の全てを受け入れる覚悟で、私はそれを了承した訳だけれど。
圭人
圭人
……あ、桜付いてるよ
あなた
へ……ッ!
圭人
圭人
ちょっと待ってね
 そんな突飛な約束を交わしてからと言うものの、無性に彼を意識してしまう私がいた。

 ただの幼なじみ。ただの親友。そのはずだったのに、次第に私は彼の心に引き寄せられていたのだ。
 もしも先輩が私の気持ちを知ったら、きっと怒るかな?

 それとも………。


 ―――祝福、してくれるのかな?
 圭人の指先が、私の髪にそっと触れた。その瞬間私の胸は大きく弾み、その喜びを感じさせる。

 ああ、何で……。
 今更こんなに好きになってしまうんだろう。


圭人
圭人
………あなた?
あなた
へっ、何!?
圭人
圭人
顔赤いけど……どうしたの?
 憎らしいくらい鋭い圭人には、私の顔の変化くらいどうやらお見通しのようだ。心配してくれているのか、私の顔を覗き込みながら「大丈夫?」と微かに微笑んで見せた。
あなた
何でもないよ。何でもないけど……
圭人
圭人
……ん?
 優しく首を傾げた圭人が、私の頭をそっと撫でる。彼が私に触れる度、私は彼を好きになっていく気がした。

 もっと触れて、もっと優しく……。
 なんて、そんなおこがましい願いをできる立場でない事くらい分かっているけれど。
あなた
圭人………
 何だか、言葉が溢れそうだ。
 私の頭に置かれた彼の手を掴み、聞こえるか聞こえないか程の小さな声量で彼の名前を口にした。

 私の微かな声さえも聞き逃してくれない圭人は、そんな震える私に「ん?」ともう一度首を傾げながら目線を合わせてくれた。
 先輩に本当の想いを言えないまま恋の終わりを迎えた私は、ずっとあの日を後悔していた。

 もしも勇気を持てて、素直に伝える事が出来ていたらきっと彼は変わらず私の隣に居てくれただろうに。


 初恋だってそうだった。私自身の臆病さが裏目に出てしまい、結局言わず終い。だからだろうか。今、私は彼に伝えなければという気持ちで胸がいっぱいなのだ。
あなた
あのね、圭人―――


 ねぇ、圭人。
 私の話―――聞いてくれないかな?


 臆病で弱虫な私の……大事な話を。







あなた
……私、私……ッ
圭人
圭人
なーに?

ちゃんと待ってるから。急いで言おうとしなくて大丈夫だよ

 なぜもっと早く気づけなかったのだろう?
 なぜ……あの日この答えを出せなかったのだろう?


 涙で頬を濡らしながら私は精一杯声を絞った。幼なじみに、貴方に……圭人に伝えたくて。

 どこまでも一途で真っ直ぐな彼の瞳はきっと、私の言いたい事などとっくに気付いてくれている事だろう。

 だが、やはり自身の口で伝えなければならない。だって、これから先もずっと私達の思い出として残っていくのだろうから―――。





あなた
私、やっと気付けたの。
圭人、私……貴方が好き。誰よりもずっと、好きでした
圭人
圭人
え…………。
そ、それ………本当?
あなた
本当に決まってるじゃん。信じられない?
 かなり動揺しているのか、不器用に呂律を回しながら圭人は私の頬に流れる涙を両手で拭ってくれた。

 私の頬に手を置いたまま、顔を俯かせた圭人の耳は、何やらほんのりとした赤色に染まっているように思え、何気なく問いかけた。

あなた
……圭人?
圭人
圭人
ごっ、ごめん………。
あまりにも……嬉しくて………幸せで………ッ
 理性が崩れたミステリードラマの犯人のように怪しく笑い上げる圭人の身体を、思わずそっと抱き締めた。

 幼なじみって……こんなに愛しいものだったっけな。それすらも分からないほど、どうやら私は彼に心を捕えられているようだった。


圭人
圭人
あなた……俺も、あなたが大好きだよ。
ずっとずっと前からあなたとこうなれる日を夢見てたんだ
あなた
………うん、知ってるよ



 圭人の優しさも、温かさも、幼さも、男らしさも……全部受け入れられる。いや、その全てさえも好きで好きで仕方がないのだ。愛おしくて、大好きで………。
 圭人はきっと忘れているだろうけど、圭人は昔私に一通の手紙をプレゼントしてくれた。

 幼稚園の頃よく使っていた落書き帳の切れ端に、たった一言「あなたちゃんのおむこさんになりたい」とだけ書かれた幼い頃のラブレター。

 彼はきっと知らないだろうけど、今も私の机の中にひっそりと眠っている。私だけの、大事な……特別な思い出。きっとこの先も彼にすら告げる事はないだろう。



 あの日交わせなかった先輩との合言葉。
 この先も二度とそれを口にする事はないだろう。




 ちょっぴり塩辛い後悔を胸の底に仕舞いながら、圭人の指先に指を絡めた。



 圭人、これから先もどうか宜しくね。
 臆病で弱い私を、これからもずっと側で見守っててね。


 ――変わらない優しさを、これからも。

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