〜翌日、昼〜
みかさside
昼下がりのリビング。
らいとがゲームのコントローラーを振り回している。
思わずツッコミが出る。
隣に座って教えると、
笑い声が広がる。
その空気は、あまりにも普通で
——昨日感じた違和感が、嘘みたいだった。
ふと視線を感じて、顔を上げる。
部屋の端。
窓際に立っていたのは、メルトだった。
カーテン越しの光の中で、じっとこちらを見ている。
目が合う。
でもすぐに逸らされる。
——またや
昨日も、今も
なんであんな距離取るんやろ。
らいとに頼まれて立ち上がる。
キッチンへ向かう途中、
もう一度、メルトの方を見る。
——今度は、目を逸らされなかった。
一瞬だけ
ほんの一瞬だけ、視線がぶつかる。
そのまま、足が止まった。
先に口を開いたのはメルトだった。
低くて、少し不機嫌な声。
言葉が出てこない。
でも、ここで引いたら——
ずっとこの距離のままな気がして。
気づいたら、聞いていた。
空気が止まる。
後ろで、らいとたちの笑い声が遠くなる。
メルトの眉がわずかに動く。
思ったより強く言ってしまう。
でも止まらない。
胸の奥が、じわっと熱くなる。
数秒の沈黙。
そのあと、
短く返ってくる。
一歩、近づく。
その瞬間
強い声。
今までで一番大きい。
びくっと体が止まる。
でも――
足は、止まらなかった。
もう一歩、近づく。
距離が、ぐっと縮まる。
関西弁が、自然に出る。
自分でも驚くくらい、まっすぐな言葉だった。
メルトの表情が歪む。
一瞬だけ、焦りの色が見えた。
そのまま、手を伸ばしかけて——
止まる。
低い声。
押し殺したような。
次の瞬間
ガタンッ、と大きな音がした。
テーブルの端が、崩れていた。
らいとが
と声を漏らす。
空気が一気に変わる。
メルトの手
何も触れていないはずなのに、
その周りの木の部分が、ひび割れていた。
自嘲気味に笑う。
言葉が出ない。
ただ、目の前の光景を見ることしかできない。
メルトの目が、まっすぐこっちを見る。
さっきまで逸らしていたのに。
今は、逃げる気配がない。
その一言で、
全部が繋がった気がした。
昨日の“来んな”。
コップの震え。
距離。
全部。
気づいたら、口が動いていた。
自分でも、何言ってるかわからない。
でも止まらない。
静かな声。
でも、はっきりと。
メルトの目が揺れる。
一歩。
さらに近づく。
周りがざわつくのがわかる。
でも止まれない。
少しだけ、息を吸う。
沈黙。
時間が止まったみたいに、誰も動かない。
メルトが一歩下がる。
顔を逸らす。
吐き捨てるような声。
でも、その奥にあるのは——
明らかに、怒りじゃなかった。
ぽつりと返す。
その言葉に、
メルトの動きが止まる。
でも次の瞬間、
それだけ言って、背を向けた。
そのまま部屋を出ていく。
残された空気。
誰も、すぐには動かなかった。
ロゼの声。
少しだけ低い。
その言葉に、
胸の奥がぎゅっと締まる。
小さく呟く。
でも——
後悔は、していなかった。
——あのとき見た顔。
あれを、なかったことにはできない。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!