第19話

奇跡を、貴方ともう一度。
20
2019/09/08 10:55
あの日私は、初めて『奇跡』というものを見た。様々な条件をクリアして、尚且つ自分たちは必ず勝利を掴まなくてはいけない。簡単ではない中で、私たちの愛する人々は、奇跡というものを見せてくれた。そしてあれから2年。私たちは今、再び奇跡を起こせる立場にいる。
今となって、2年前の私を思い出す。誰も、諦めてなどいなかった。何度厳しい立場に立たされようとも、誰も諦めることは無かった。11月には、自分たちが夢の舞台を掴むのだと、誰も疑ってはいなかった。大丈夫、絶対に勝てる。その気持ちは一つになり、それは、私たちサポーターだけでなく、選手達にも伝わっていたはずだ。私たちサポーターと選手は背中合わせで戦っている、と勝手に思っている。私たちの応援が力になる。選手の全力のプレーが私たちの力になる。互いに互いを鼓舞し、激励する。そして、本当に私たちが一つになった時、奇跡というものは起こるのだと思っている。
奇跡は、決してあちらからは歩み寄ってきてはくれない。例え目の前にあったとしても、その存在に気づくことが出来なければ意味は無い。奇跡というものは、唯舞い降りてきてくれるだけだは無いのだ。私たちに、奇跡を起こすだけの覚悟があるのか、それだけの舞台が整っているのか、奇跡を願える程の努力をしてきたのか。私たちの伸ばす手の先に、必ず良い結果があるとは限らない。それでも、その手を伸ばさなければチャンスもない。チャンスが訪れても、それに挑戦しないと意味が無いのだ。一歩進んで立ち止まって、少し下がってまた前に歩いて、たまに走って転んで、沢山の山を乗り越えて。何度も何度も挫けそうになりながら、それでも前を見ることを辞めない。その眼光に映る眩い程の光を放つ永遠の夢は、いつだって私たちの前に存在するのだ。私たちがその先の景色を望む限り、諦めない限り、応援の声を、全力のプレー止めない限り、成長のきっかけはそこにある。
私だって、何度も辞めてしまおうかと思った。もう声を出さなければ、この足を止めれば、この手拍子を刻む手を止めれば、私はもっと楽になれる。偶に、『なんで、このチームが好きなんだろう』って、思うこともあった。だけど、それを何度も乗り越えて、やっと掴んだ奇跡は、言葉には出来ないものがあった。奇跡の笛がなる前に、私の脳内に凄まじい勢いで、出会ってからこれまでのたくさんの思い出がフラッシュバックした。泣いたこと、笑ったこと、悔しがったこと、懐かしがったこと、いつか来る別れに寂しくなって、夜にこっそり泣いたこと、好きな選手を目の前にして、慌てふためいて、それでも頑張って気持ちを紡いで伝えたこと。どれも、私の大切な思い出だった。
そして、その沢山の思い出と、そこに存在した沢山の奇跡と偶然が繋がって、沢山の人の想いが重なって、あの日私は、初めて奇跡というものを見たのだ。
私は、あの奇跡を起こすだけの力を、いや、それ以上の奇跡を起こす力があるはずだと信じている。きっと、私たちの気持ちに答えてくれる。だから、例え結果が出ずとも、私たちのために自分の身を粉にして戦い続けてくれる選手には、敬意を表さなくてはいけない。そしてまた、あの奇跡を起こしてみてよう。奇跡は起こすものなのだから、私たちになら必ず出来る。今、私たちに課せられる大きな課題は、再びあの奇跡を起こすこと。
だけれども、今は目の前の一つ一つの試合に全力で挑む。その先にある奇跡を、今いる君たちと見たいから。この伸ばした手の先に、君たちの笑顔があるから。
愛は、人を繋ぐ。人の繋がりは、熱い気持ちを起こす。気持ちは、奇跡を起こす。奇跡は、感動を呼ぶ。その感動は、いつかまた奇跡と語られ、そしてそこからまた奇跡が生まれる。そうして、何度も何度も奇跡は巡って、その度に私たちは強くなる。奇跡を起こすだけの力を、私たちは身につけていく。
ここにしかない感動を、ここでしか起こせない奇跡を。私は、君たちと、掴みたい。もう一度。
いや、あの時とは違う、君たちだけにしか起こせない奇跡を。奇跡という景色を、もう一度見たいんだ。

これからもずっと応援しています、大好きです。


長くなってしまったけれど、沢山の気持ちを込めて、私たちの方へ歩いてくる選手に心の中で思いを綴った。

「大好きな選手。私に、沢山の感動を、沢山の思い出を、ありがとう。これからもずっと大好きです。」

そして、その気持ちを声にして、目の前にいる沢山の選手に届けた。それは、大きな歓声の中の一部にしか過ぎなかったけれど。ホーム最終節、J1に昇格した日。私たちの声に、沢山の笑顔が咲いた。向けられたピースに答えるように、私たちは大きく歓声を上げた。沢山の涙を流して、沢山の言葉を叫びながら。






これから2ヶ月後、こんな景色があるといいな。(2019/09/08)

プリ小説オーディオドラマ