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薄月の檻

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江戸中期。
夢主は没落しかけた武家の娘。
父の罪により、とある大名家へ“保護”という名目で預けられることになる。
だが夢主は誰も信用していなかった。
父を切り捨てた親族も、体裁だけ整える武家社会も、自分を憐れむ人間も。
屋敷に来た初日から、彼女は従者も世話係も遠ざけ、感情を見せず淡々と暮らしていた。
そんな彼女の護衛兼監視役として付けられたのが、伏見弓弦。
礼儀正しく、隙なく、常に穏やかな男。
夢主が冷たく突き放しても、彼は少しも態度を変えない。
むしろ——距離を詰めようとしなかった。
「無理に信頼をいただこうとは思っておりません。
ですが、お困りの際はお呼びください」
その態度が、かえって夢主には気に入らない。
監視のくせに踏み込まず、情を見せず、何を考えているのか分からない。
ある夜、夢主は偶然、弓弦が屋敷に侵入した刺客を始末する場面を目撃する。
返り血を浴びながらも、彼は昼間と変わらぬ穏やかな顔で言った。
「ご覧になりましたか。……失礼いたしました」
夢主は悟る。
この男は優しいのではない。
必要なら迷いなく人を斬れる側の人間なのだと。
けれど同時に、弓弦もまた主家に縛られていることを知る。
彼は夢主を守っているのか、それとも監視しているのか。
分からないまま月日が流れ、お家騒動が激化。
夢主は政略の駒として別家へ差し出されることになる。
屋敷を出る前夜、彼女は弓弦に問う。
「あなたは命じられれば、私をどこへでも連れて行くの?」
すると彼は静かに答える。
「ええ。……ですが」
「命令がなくとも、お守りしたいと思っております」
——その言葉さえ、夢主にはまだ信じられなかった。
チャプター
全45話
141,282文字
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