図書館を去り、二人で街中をぶらぶらと
散歩している時、ふと彼にそう質問した。
案の定、彼は少し驚いた顔を見せつつも
質問に対する回答について熟考しているようだった。
確かに、私自身もそこまで頻繁に食べている訳では無い。
スラム育ちにそう言われてしまえば
どうとも返す言葉がない。
ーーー
ハートのような形をした焼き菓子パンを両手で
持ち、俄然興味を示しているように見えた。
私は、大抵の事はなんでもひとりで
乗り越えてきて、
それなりに充実していて、
安定した生活を手にしていたために、
今目の前にいる自分より,,不幸,,な人間への
配慮と考えが行き届いていなかったみたいだ。
にしても、プレッツェルを食べたことが
ないだなんて
一生分の損をしているな。
基本的に甘さのないプレッツェルなら
甘いものが苦手な私でも
気兼ねなく口にすることが出来るし、
味付けによって甘味の具合も変わってくるから
自分の好みに合わせやすい。
そう思考を巡らせていて気にもとめなかったが
彼が、一口も食べずに俯いていることに
たった今気がついた。
『どうしたの?』と尋ねると、
彼は恐る恐る声を発した。
私は彼の言葉を遮り、自身の言葉を述べる。
もしも、という非現実のことではなく、
いま、という現実のことに目を向けよう。
きっと、そうするべきである。
私の胸元に両手を広げて飛び込んできた彼は
ぐりぐりと自身の頭を押し付けてきた。
彼の甘えに答えるように
左手で彼の背中を支え、
右手で彼の頭を小さく撫でた。
ーーー
にっこりと笑い、満足そうに大股で歩く彼は
やはりまだまだ可愛げがある
小さな子であった。
無邪気な彼を見ていると、こっちまで
晴れやかな気持ちになってくる。
少しの沈黙の後、
彼は少し震えた声で新たな話題を切り出した。
この子……本当に可愛いな((
すぐ表情が変わる。
ついさっきまでは
あんなに幸せそうだったのに
今は俯いて小刻みに肩を揺らしている。
日が沈みつつあり、私たちに赤色の陽射しが
差し掛かる。
宛も行先もない、ましてや帰る家もない私は
明日に希望を抱くように目の前の夕日に
視線を向けた。
彼に服の袖部分を弱々しく引っ張られる。
彼の瞳を見るとその目には哀愁のようなものが
ぐるぐると渦巻いているように見えた。
真っ直ぐすぎる視線に少し冷静さを欠き、
僅かにうろたえてしまった。
きっと今彼は、彼なりに私に
気を使わせないようにするために
どうしたらいいかを思考し
整理しているのだろうな。
明らかに視線が泳いでいた。
まだまだ自分の本心を隠しきれていない。
まぁそんなところに幼さと愛くるしさを
感じた。
私は路地の真ん中で中腰になり、
彼と目線を合わせて頭を撫でた。
昔から大勢が集まる場所では人酔いによって
頭が正常に回らなくなってしまうから
好きじゃないしね。
頭を撫でていた私の手を弾き、
反抗の意を私に確かに示す。
目を見開いていた。
開いた口が塞がらないっていうのは、
きっとこういう境遇に出会った
人間が作ったんだろうな。
微かに唇が震えていた。
額にうっすらと冷や汗も見えていた。
,,そりゃぁそうか,,
続きの言葉を待ったが、
その言葉が紡がれることは無かった。
彼の目には大粒の涙が溜まっていた。
口は強く結ばれ、鼻先と瞳の周りが
薄く紅色に染っていた。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。