あれからしばらくして、いるまちゃんが落ち着いた時
俺はゆっくりと、焦らせないようにしながら
いるまちゃんにこう問いかけた
その問いの返答は、決まってたみたいで
いるまちゃんは、俺が予想してたよりも早く
口を開いて返答した
いるまちゃんなりに、色々考えたんだと思う
警察に連れていかれたこさめちゃんを
今このたった二人で会いに行くのはリスクだし
そもそもそこに行けるかすらもわからない
ひまちゃんは虐待されている可能性が高いから
とりあえずその証拠集めから始まるし
そもそも家が唯一このメンバーの中で反対方向
となると、選択肢は
らんらんかみこちゃん、
というのが妥当な判断になるのだけれど……
この二人をとったとき、
いるまちゃんがみこちゃんを選ばないはずがなかった
それは、みこちゃんに絶大な信頼があるからか
それとも、目の前で連れていかれたことへの後悔か
はたまた、らんらんの既読がつかない異常事態への恐怖か
どれかは、俺もさすがにわからない
けれども、いるまちゃんはみこちゃんを選んだなら
そう言ういるまちゃんは、どこか悔しそうに見えたけれど
ちゃんと俺の言いたいことがわかったのか、
ゆっくりと頷いた
けれども、その後発せられた言葉に、
思わずしまった、と思った
それは、そうなのだ
いるまちゃんには、今帰る場所なんてない
いるまちゃんは、
自分の家から何らかの理由で逃げて
こさめちゃんの家にいたのに
そこがもぬけの殻となった今
いるまちゃんに、居場所なんてなかった
かといって、こさめちゃんのことがあった今
俺の家にいるまちゃんを泊めるのも、リスクが大きい
何より、いるまちゃんが嫌がると思う
また、俺がこさめちゃんみたいになるのでは、と
でも、意外とそれを解決する答えは
すぐここにあった
その言葉に、いるまちゃんが目を見開くと
少しだけ、安心したように頷いた
あれから、何十時間か経ったらしい
とっくに日は暮れて、また日が昇って
もう既に、あれから二十四時間以上過ぎていた
まだ、体感数分なのが信じられないけれど
恐ろしいく痛いぐらいに現実は
足早に駆け抜けたのだと、実感した
急に、部屋の外からお母さんの声が聞こえた
ご飯を催促するような声
でも、今食欲なんてあるわけがなかった
早くその場から離れてほしい
こんな親が近くにいるだけで吐き気がするのに
それなのに、お母さんは名前を呼んできた
まるで、否定を肯定にしてほしいかのように
恐ろしいほどに、怒りが込み上げた
叫んでも、お母さんは動揺するだけ
その場から離れてくれなんかしない
その時、お父さんの声も重なって聞こえた
その言葉に、思わずゾッとする
なんで、なんで、?
俺は、洗脳なんてされとらんのに
俺は、ちゃんと俺なのに
なのに、本当の俺は、洗脳されてる虚像のオレ?
なんで、こんなことになったんやろ
俺は、まだみんなといたいんに
なのに、海外留学するとか
洗脳されてるとかでみんなを否定されて
親が選んだ今日は平凡で……
もう、崩れそうになる日々で
全部全部全部もう、どうでもいい
そう思った、その時だった
インターホンが、鳴った
なんて思った
でも、昨日の件を思い出して
もしかしたら警察かもしれない、とも思った
警察ならいいのに
それで、何かの間違いでもいいから
俺が逮捕されてくれたらええんに
そしたら、また、こさめちゃんに会えるから
ふと気になって、そっと部屋のドアを開けた
部屋のドアを開けて、玄関の方に向かった
でも目の前には、警察なんかよりもいい、
本当に夢みたいな光景が広がっていた
もう、会えないと思っていた
そんな二人が、目と鼻の先にいた
思わず、その場から駆け寄って、二人に抱きついた
何に対してかなんてわからない
でも多分、昨日のこと全てに、俺は謝っている
昨日こさめちゃんが来た時何もできなかったこと
それの原因が俺の親だったこと
いるまくんを独りにするのにも関わらず
俺は、親に連れて行かれてしまったこと
でもそんな謝罪を否定するかのように
俺の肩が静かに濡れた
そう言って謝るいるまくん、
謝らんくてもええのに、なんて思いながらも
すちくんがそっと背中を擦る手が心地よくて
ぎゅっと、二人を抱きしめる力を強めた
けれども、そのとき後ろには、
俺のお父さんとお母さんがいた
俺の話を聞く気のなかったお父さんが、
二人のことを知るはずもなく、
驚いたように口を開いた
そのことに、すちくんが目を見開いた
そりゃ、そうやろうな
やって、まさか俺が話しとらんとは思っとらんし
でも、実際は話してるんよ、
ただ、それをうちの両親は聞いてないだけ
俺に、興味関心がなかっただけやから
いるまくんは、それを知ってるからか、
少し間をおいてから、普通に答えた
それと一緒にすちくんも自己紹介をする
いるまくんとすちくんを交互に見たお母さんは
ゆっくりと首を傾げた
いるまくんの声で、一気に現実に引き戻される
でも、まだ、言葉の意味が理解できなかった
俺は、震える声を精一杯に絞り出して
ゆっくりと、口を開いた
俺は、いいよなんて言っていないのに
なんで、準備が進められてるんか
正直、なんも意味がわからんかった
けれども、それに対してお父さんは
何が問題なのかわからないと、本気で思ってるような
そんなとぼけた表情を浮かべていた
そう言い放たれて、思わず目を見開く
……あぁ、
俺のお父さんとお母さんって、ここまで終わってたんやな
って、思わず気がついてしまった
勿論、最初から終わってるとは、思ってた
ずっと、俺に興味なんてなくて
俺の意見なんて聞かずに、海外ツアーを決めて
俺のことを置いていったような親だから
……でも、な
それでも、それでもどこか……
少しだけ、期待してしまってたんよ、?
もしかしたら、今度はちゃんと、
俺の話を聞いてくれるかもって
それが一気に目の前で壊されて、思わず俯く
目に、熱が集まるのがわかって、情けなくなった
でも、その時すちくんが出した声で、
思わず、驚いて少しだけ顔を上げた
すちくんは、見たことのないぐらい、
いつもふわふわとしてるのが信じられないぐらい
真剣な表情で、静かに怒りを燃やしていた
そう言い切ったすちくんに、思わず視線が完全に移る
心の底から、凄いと思った
この状況で口を堂々と開いて、
自分の意見を真正面からぶつける
思わず、感心してしまって
人任せに、したくなくなった
そう、お母さんが反抗しようとする
けれども、俺はそれに被せるように
一度諦めた言葉を、口から吐き捨てた
もう、繕いなんてしない
「いつもの」すら知らない親に
それを知ろうともしない親に
もう、繕う必要なんてない
初めて、親の前で出した真顔と、低音に
お母さんは、目を丸くした
けれども、止める気なんてない
俺は口を更に開いて、言葉を吐き出す
そこまで俺が言い切ると、
お父さんとお母さんの顔色が変わる
まるで、図星を突かれたような顔に
言い訳しようとするお父さんに、
俺がそう言って言葉を止める
お父さんは悔しそうな顔をしたけれど
そんなの関係なしに俺は更に口を開く
そこまで、言い切った
その言葉には、親じゃなくて
いるまくんとすちくんが驚いた
けれども、言葉の真意を汲み取れない
お母さんが、ゆっくりと口を開く
馬鹿だな、なんて思って、諦めようとした時
いるまくんが、そう言ってくれて
俺は少し、気持ちが軽くなった気がした
そう言うと、激しく呼吸をするいるまくん
いつの日かのいるまくんと重なって、
胸がきゅっと、苦しくなった
また、俺のせいで、前に出させてしまったのだと
思って、俺が耐えられなくなりそうだった
けれども、そんなこと言ってられない
俺は、目を丸くしたままの親に呆れて
静かに玄関の扉の前に立って、
すちくんといるまくんにこう言った
ゆっくりと扉を開くと、
いるまくんとすちくんが外へ出た
俺もついで外に出ようとすると
お父さんの声が耳に響いた
その声の真意が、わかってしまって
罪悪感が、俺を蝕んでいく
けれども、俺は一瞬だけお父さんの方を向いて
その一言を残して、二人と共に家を出た
もう、この二人とも会えなくなる
なら、せめてこの二人といさせてや
もう、全部諦めるから
留学だってするし、ドラムだって文句なくなる
自分の考えを認めてくれることなんて、諦める
やから、さ……
道端を歩きながらそう呟く俺を
いるまくんが、優しく頭を撫でてくれた
それが、異様に心地よかった
昨日の今日も延長戦
俺と、俺の大嫌いなものとの、
延長戦がいまだに続く
父親と母さんが死んだ事実なんて変わらなくて
孤独が俺のことを無慈悲に蝕んだ
未だにスマホなんか見れなくて、
ただただ部屋に籠もってるだけ
こんなやつが生徒会長だなんて、誰も信じないんだろうな
でも、やっぱり思うことがあった
父親の癌は、まだしょうがないけれど
母さんの自殺が、引っかかった
父親のせいで精神病を患ったのに
母さんは、父親の跡を追った
ずっと、なんでだろうと思ってた
でも、なんとなく、こうだろうなって思った
母さんは、父親がいなくなることが
異常に怖かったんだ、って
大人だって、臆病だ
俺が人生で見てきた大人で、
臆病じゃない人なんて見たことがない
強いて言うなら教科書の中の人物ぐらい
もし、こさめを成人してる大人、と見るなら
こさめしか、度胸がある大人はいなかった
俺には、犯罪で捕まるリスクを背負ってまで
二人を保護すると言う行動は無理だと思う
……まぁ、そんな度胸があるこさめも、
きっと臆病な側面を持っているんだろうけど
でも、それよりも大人はもっと臆病で
子供にあれはダメ、これはダメという癖に
実際は子供の臆病じゃない心を
勝手に制御して強がってるだけ
そう俺は思っている
ねぇ、誰か来てよ
ねぇ、誰か助けてよ
ねぇ、俺を____っ
みこちゃんを連れ出して
しばらく道を歩き続けて
俺たちは秘密基地へ戻っていた
まだ____いや、もう、
俺の前で完全に繕うのをやめたみこちゃんは
そうぽつりとつぶやいた
いるまちゃんが、そう呟いて
それに続くように俺も呟く
けれども、それの答えを、俺は知ってる気がした
高校の一番最初に話しかけてくれた、
らんらんの姿を思い出す
いつもキラキラとしていて、明るくて
太陽みたいな存在の、らんらん
らんらんのお陰で集まれた、俺たちは
秘密基地に集まって、多くのことをしてきた
そんならんらんの個人的な考え方が
この秘密基地の安心感に繋がってるんだと
俺は多分そう思っている
でも、ずっとわからなかった
ずっと、らんらんのことだけは
不透明な気がしたんだ
みんなの憧れる生徒会長で
両親の為に自分の身も削るし
俺のことも助けるために動いていた
最初は、すごいなって感情だけだった
らんらんらしいな、って思うだけ
……でもね、
今になってなんとなく、
気づけたみたいだよ
その時、スマホの通知音が鳴った
しかも、三人のスマホから同時に
三人で同時にスマホを開くと、
メッセージグループで、
ひまちゃんがメッセージを送っていた
〈 最強No.1 (6)
その、一通だけ
たったの、四文字だけ
全て平仮名で送られてきた、
けれども、ひまちゃんの送るその言葉は、
明らかに、異常事態だと知らしめていた
今日で完結できたら完結しますので
夏休み最終日、四話投稿お楽しみください
できなかったら諦めて夜中投稿します












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。