—ナビちゃんお預かり中の、ユジンとギュビンのある昼下がり—
「……え、これってほんとに3歳?」
ユジンはソファに座って、目の前のナビちゃんが並べたぬいぐるみを見つめる。
ぬいぐるみたちは整列し、それぞれに名前がつけられ、ナビちゃんは真剣な表情で“授業”をしていた。
「こっちはうさぎの“うさこちゃん”で、こっちはくまの“くまおにいちゃん”、で、これがギュビン」
「ちょ、まって、なんでぬいぐるみの中に俺いんの!?しかも顔めちゃくちゃ潰れてるクッションやん」
ギュビンが突っ込むと、ナビちゃんは「だってギュビンおじちゃん、やわらかくてふわふわだから〜」と悪気ゼロの満面の笑み。
ユジンは笑いをこらえてソファの背にもたれた。
「ナビちゃん、じゃあその“ギュビン”はどんな役?」
「先生!」
「それ俺やりたい!」
「だめ〜、ギュビン先生じゃないと、ナビちゃん授業がんばれないもん!」
そう言ってナビちゃんは、ぬいぐるみたちに向かって「今日の授業は、ぱぱのおはなしです!」と叫ぶ。
ギュビンは一瞬目を丸くして、それから柔らかく笑った。
「……パパのおはなしって、何?」
「パパね〜、ナビちゃんが泣いたらすぐぎゅってしてくれるし、いっつもおいしいごはんくれるの!あと、テレビも見してくれる!」
「それ、ただの“甘やかし”なんじゃ……」
ユジンがぼそっと言ったが、ギュビンは嬉しそうにうなずいた。
「……いいねぇ、そういうの。ナビちゃんのなかで“パパ”って言葉が、もうちゃんと“あったかい人”って意味になってるんだな」
そのとき、ナビちゃんが突然ギュビンの方に駆け寄ってきた。
「ギュビンせんせ〜、おなかすいた〜!」
「おっと、じゃあそろそろおやつの時間にしよっか」
そう言って立ち上がるギュビンに、ユジンも続く。
「じゃ、俺がジュース用意してくるね」
「じゃあ俺は、フルーツ切るわ。ナビちゃん、今日はいちごとバナナどっちがいい?」
「いちごーーー!!」
元気な返事に、ふたりは笑いながらキッチンへ。
ナビちゃんはリビングで、“ぬいぐるみたち”と一緒にテーブルを囲む準備をしていた。
ふと、ギュビンは切りながらぽつりとつぶやいた。
「……ああいうの見るとさ。やっぱ欲しくなるね。子ども。」
ユジンはジュースを注ぐ手を止めて、ギュビンの横顔を見る。
「……いつか、できたらいいね。俺とギュビンの家にも、ナビちゃんみたいな子」
ギュビンがふっと笑う。
「うん。……きっと可愛いと思う」
その言葉に、どこか未来の家族のかたちが重なるようで——
午後の光の中、静かであたたかい時間が、穏やかに流れていた。
___
玄関の扉が「カチャ」と音を立てた瞬間——
「パパーーーー!!ママーーーーっ!!」
ナビちゃんは、絵本を読んでいたソファから跳ねるように立ち上がり、全速力で玄関に向かって駆け出した。
小さな足音がフローリングを駆ける音が、ぴたぴたと家中に響く。
ハオがドアを開けて数秒、ナビちゃんが勢いよく飛び込んでくる。
「ただいま、ナビ」
「パパぁぁ〜っ!!!」
そのままハオの脚にしがみついて、嬉しそうにほっぺをすり寄せる。
ハオはしゃがんでその小さな身体をぎゅっと抱き上げた。
「よしよし、いい子にしてた?」
「うん!ギュビンおじちゃんとユジンおにいちゃんと、ぬいぐるみの学校したの!あとね!いちごも食べたの!」
元気な報告にハオが微笑むと、今度はハンビンの方へ身体を乗り出して、両腕を広げた。
「ママ〜!ぎゅってして〜〜!!」
「はいはい、ナビナビは今日も甘えんぼだねぇ」
ハンビンがナビちゃんを受け取るように抱き寄せて、何度も頬にちゅっちゅとキスを落とす。ナビちゃんはケタケタと笑い声を上げて、嬉しそうにハンビンの首にしがみついた。
リビングから出てきたギュビンが、呆れたように肩をすくめる。
「ずっと“パパとママもうすぐ来る〜?”って何回も聞いてたんですよ。絵本も読みながら時計ちらちら見てて。」
ユジンも後ろから出てきて、「あの集中力、将来サッカーじゃなくて演劇に行くんじゃないかって思った」と冗談を言いながら笑う。
「だって!ナビ、ママとパパがいっちばん好きなの!」
ナビちゃんが元気にそう叫んだ瞬間、ハンビンもハオも同時に顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。
——小さな命がくれる、いちばんの「おかえり」。
その日、夜ご飯はナビちゃんの大好物ばかりの特別メニューになった。











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。