しばらく歩いた先、「チーフ以外立ち入り禁止」と書かれたプレートが掲げられた部屋が目に入った。
クロウはをの部屋のドアノブに手をかけた。
アネがパタパタとクロウに寄ってくる。
アネが銀朱をキッと睨む。
***が銀朱であるということはまだ気づいていないのだろう。
アネは敵対心を弱めた。
奥からひょっこりと水色髪の女が出てきた。
そして、銀朱の姿を確認するなり、女は顔をしかめた。
女が銀朱に詰め寄る。
銀朱が冷たく聞く。
また、銀朱の方が女より身長が高いため、銀朱が見下ろす形になる。
それも引き金になったのだろうか。
女はキレた。
いや、正確にはヒスになった、か。
修羅場だった。
どこかで見たことがあるような気もした。
その中、一人の男が入ってきた。
白髪で、背はわりと高め。
後ろ姿だけならイケメンとも言えそうだった。
しかし、問題は顔にあった。
ここまでするか?というほどにその男の顔には闇だとか絶望だとかいうネガティブが張り付いていた。
どうやらそいつは例のテッセンという男らしかった。
ゲッカはにこにこしながら、テッセンは表情を変えずに話していた。
そして、二人は奥のソファーに腰を掛けた。
2人の様子はまるで、操り人形と操り師のようだった。
銀朱はげんなりとした。
愚痴会が始まりやしないかとひやひやしていたクロウはまた二人を宥めた。
入口から3人がプラスチックの弁当容器やお茶やらを持ってきた。
ドンっ、と弁当を雑に置く。
オトネはイラついた感じで席に着いた。
アネがオトネにちょっかいをかける。
それを見てクロウはくすりと笑った。
こほん、と咳払いをしてクロウは笑っていない、と訂正した。
一方その頃、銀朱はコダマと話していた。
コダマがわざとらしくお辞儀をする。
コダマが、いや、全員が口を閉じた。
ピンク髪のテンション異常野郎達と、白髪の石像みたいに静かな奴の3人がその指定された席に向かう。
その道中では3人の顔の部分だけ丁度見ることは出来なかった。
クロウだとか、アネだとかの頭で隠れていた。
また、その席の前には簡易的な「壁」があり、これもまた顔を見ることは出来なかった。
ふらふらとした足取りをしているのだろう。
クロウが白髪の奴に近づく。が、
スノウ、という奴は大きな声でクロウを怒鳴り、制した。
また部屋の中が静寂に包まれた。
銀朱は息苦しさを覚え、必死で息を吸った。
が、それでも息苦しさは解消されず、これは精神的なもの、即ち緊張であると結論付けた。
クロウは少し青ざめた顔で謝罪をした。
各々が定められた場所と思わしき場所に座る。
ところで、初めてこの場所に来た銀朱はどこに座れば良いのだろうか?
アネがぐるりと部屋を見渡す。
たった一つ空いていた席、コダマの隣に座ることとなった。
どうやら、この会議というやつはアネが仕切っているらしい。
アネは一息ついた。
これは銀朱はすでに知っていることだった。
多分、この調子でいけば皆は名前とチーム名、そのチームの詳細を語ってくれるのだろう。
こうやって過ごしている時間にも見学は進んでいると考えると、知識の遅れが不安だった。
が、どうやらその問題は解決されそうだ。
クロウは律儀に礼をした。
この場に来てますます思ったが、クロウという奴はかなり真面目でまともだ。
一方、それ故に様々なことに振り回されて「苦労」もしてそうだな、と銀朱は考えていた。
これは偶然なのだろうか?
テッセンとやらと会って「栄養補給」をしたからだろうか。
ゲッカは先ほどとは打って変わって大変ご機嫌だった。
よくよく見れば、顔は可愛い。
顔は。
テッセンは虚ろな目でそう言った。
ゲッカから栄養補給され、栄養を失ったから、という理由でも納得はできそうな雰囲気だった。
コダマは死にそうな目で言った。
この部屋に来て以来、欠伸を繰り返しているあたり睡眠不足なのだろうか。
よくよく顔を見ればクマもある。
やや乱暴な言葉遣いでオトネは言った。
暴力的。
力しか誇れるものがない銀朱にとってそれはとても煌びやかに見えた。
だよね?と言われてもわからねぇよ、と銀朱は心の中で言う。
どうやら、このローべと言う奴は何かと自信がないらしい。
話すこと全てに疑問符が付いている。
自信がないと言うのは、保証はしないということ、ともとれるだろう。
となれば、悪い言い方をすればローべは「無責任な奴」ということか。
コイツは要警戒人物かな、と銀朱は頭の片隅に置いた。
顔の見えないスノウは、淡々と述べた。
その声に温もりを感じることは一切なく、ただ情報だけが伝わって来た。
今度はだぜだぜうるさい奴が話した。
昇進は記録チームとやらで決まると言っていたが、リーダーがこんなので大丈夫なのだろうか?
賄賂とかあげただけで上がりそうだな、とか銀朱は妄想した。
一番納得のいかない説明だった。
自分がリーダーを務めているにもかかわらず、何をしているかが理解できない?
それは世界で二番目ぐらいによくわからないことだった。
何をしているのかわからないということは、普段意識をなくして業務を行っているということ?それとももしかして人格がいくつかあるとか?
そもそも、意識なしでできるほどの簡単な仕事なのか?
もしかして、建設チームは独裁国家みたいになってて、レンはただ上から伝えられた命令を淡々と言うだけだからわからないとか?
銀火の頭の中は疑問符100%だった。
アネに名前を呼ばれてハッとする。
それだけ言って銀朱は口を噤んだ。
今まで真顔でいたクロウに話が飛び、クロウ本人は少々驚いた顔をした。
クロウはアネから全体へと視線を移した。
レンが言った後、そこには少々気まずさが出来た。
レンの場違いさというのは、その白幽だとか黒幽だとかを知らない銀朱にも伝わってきた。
その空気を正すかのように、クロウ咳ばらいを一つ入れた。
ゲッカがにっこりとする。
アネはまだ話したそうだったが、他全員は無口、もしくは賛成の意を示していたのでアネは諦めて同意をした。
銀朱は他の者も食べ始めたのを確認した後、唐揚げを1個、口の中に放り込んだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。