第7話

 # 6 昼食
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2024/01/09 10:20
クロウ
……失礼します。




しばらく歩いた先、「チーフ以外立ち入り禁止」と書かれたプレートが掲げられた部屋が目に入った。



クロウはをの部屋のドアノブに手をかけた。





アネ
…あ!クロウ!



アネがパタパタとクロウに寄ってくる。


アネ
………ねぇ、なんでここに***がいるの。



アネが銀朱をキッと睨む。


***が銀朱であるということはまだ気づいていないのだろう。



銀朱
悪いか。
アネ
っていうか出て行ってくれるかな?
ここ、チーフしか入れないの。
クロウ
……色々合ったんです。
後で説明します。
本日は、***を交えて昼食を取るんです。
………まぁ、下層チーフとは声のみの交流ですが。
アネ
…クロウが言うならまあいいか。



アネは敵対心を弱めた。



………テッセンが来たの?



奥からひょっこりと水色髪の女が出てきた。



そして、銀朱の姿を確認するなり、女は顔をしかめた。



なぁ~んだ。違うんだ。
っていうか、お前誰?
テッセンの代わりとかないよね??
死んじゃったとかないよね????



女が銀朱に詰め寄る。



銀朱
誰だ。テッセンって。



銀朱が冷たく聞く。



また、銀朱の方が女より身長が高いため、銀朱が見下ろす形になる。



それも引き金になったのだろうか。



女はキレた。



いや、正確にはヒスになった、か。


そんな言い方するってことはテッセンは死んじゃったってことなのっっ!?!?
みんなもそれを言わなかったってことは、ほんとは私のこと嫌いだったんだっ!?
アネ
ゲッカ、誰もそんなこと言ってな___
ゲッカ
アネもそうやって___!!!



修羅場だった。



どこかで見たことがあるような気もした。



___お疲れ様です。



その中、一人の男が入ってきた。



白髪で、背はわりと高め。


後ろ姿だけならイケメンとも言えそうだった。



しかし、問題は顔にあった。



ここまでするか?というほどにその男の顔には闇だとか絶望だとかいうネガティブが張り付いていた。




ゲッカ
__テッセン!



どうやらそいつは例のテッセンという男らしかった。



テッセン
ああ……ゲッカ。
午前中は会えなくてすまなかった………。
ゲッカ
会議だったんでしょ?
仕方ないよ!



ゲッカはにこにこしながら、テッセンは表情を変えずに話していた。



そして、二人は奥のソファーに腰を掛けた。



銀朱
____なんかすげぇペアだな。
クロウ
えぇ。



2人の様子はまるで、操り人形と操り師のようだった。


銀朱
ここにいるってことはチーフってことか。
アネ
その通り。
ゲッカは教育で、テッセンは安全。
銀朱
ゲッカってあれだろ。
見学の時に言ってたやつだろ。
なんかわかった気がするよ……。



銀朱はげんなりとした。



アネ
普段は全然いい子なんだけどね。
一回不安定になるとこの様よ。
銀朱
めんどくせぇ奴。
クロウ
まぁまぁ……。



愚痴会が始まりやしないかとひやひやしていたクロウはまた二人を宥めた。



クソっ、なんで今日はこうすんだよ……。
たまにはこういうのも悪くないんじゃない?
あまりない経験だろ?
なぁコダマ?
知るかよ……。




入口から3人がプラスチックの弁当容器やお茶やらを持ってきた。




はい、あたしらが遥々運んできた弁当。



ドンっ、と弁当を雑に置く。


まぁまぁ、そんな風にしなくてもいいんじゃない?
____中身崩れてるし……。
クロウ
あぁ、オトネにローベ、コダマ。
ありがとうございます。
オトネ
あぁ、そうだよ、たくさん感謝しろよ……ったく………。


オトネはイラついた感じで席に着いた。



アネ
あら、感謝が欲しいの?
アネ
じゃあ、ありがとうありがとうありがとうありがとうありがとうありがとう____
オトネ
うっせぇな、そういうのは一回で済ますもんだろ。
アネ
オトネがたくさん言えって言ったんでしょ?
オトネ
たくさんの人から少しずつって意味だよ考えろバカ。
アネ
あらあら。先輩にそんな言葉遣いしていいのかしら?
オトネ
一歳差だろ。変わんねぇよ。




アネがオトネにちょっかいをかける。



それを見てクロウはくすりと笑った。



ローベ
あれ?クロウ笑った?
珍しいねぇ?
クロウ
あ……



こほん、と咳払いをしてクロウは笑っていない、と訂正した。



コダマ
………お前、銀朱?



一方その頃、銀朱はコダマと話していた。



銀朱
……あぁ。
コダマ
………初めて見た。
銀朱
まぁ見たことあるやつの方が少ねぇだろうな。
コダマ
……1人除いて、ね。
銀朱
………。
銀朱
コダマ………だっけな?
コダマ
ああ。
銀朱
面白れぇ奴だ。気に入った。
コダマ
それはそれは。
お褒め頂き光栄です。



コダマがわざとらしくお辞儀をする。




えぇ〜〜!?今日、そうすんのぉ〜〜!?
らしいんだぜ!
うるさい……。
コダマ
___来たようだね。



コダマが、いや、全員が口を閉じた。



クロウ
ああ、お三方はこちらの席にてお願いします。
おおー!
堅苦しい眼鏡クン!
おっけぇ~!
ちぇ~~!
レンが言う面白い奴ってのに会えると思って楽しみにしてたんだぜ。
でも、これじゃあ無理っぽいんだぜ……。
……。



ピンク髪のテンション異常野郎達と、白髪の石像みたいに静かな奴の3人がその指定された席に向かう。



その道中では3人の顔の部分だけ丁度見ることは出来なかった。



クロウだとか、アネだとかの頭で隠れていた。



また、その席の前には簡易的な「壁」があり、これもまた顔を見ることは出来なかった。



クロウ
スノウ、大丈夫ですか?お手伝い致しま___




ふらふらとした足取りをしているのだろう。


クロウが白髪の奴に近づく。が、













スノウ
触んな!!!!!!!



スノウ、という奴は大きな声でクロウを怒鳴り、制した。










スノウ
これくらい、できる。






また部屋の中が静寂に包まれた。



銀朱は息苦しさを覚え、必死で息を吸った。



が、それでも息苦しさは解消されず、これは精神的なもの、即ち緊張であると結論付けた。



クロウ
____大変失礼いたしました。


クロウは少し青ざめた顔で謝罪をした。


アネ
_____それじゃあ、みんな来たわけだし会議を始めましょう。
昼食は机の上にあるお弁当ね。



各々が定められた場所と思わしき場所に座る。





ところで、初めてこの場所に来た銀朱はどこに座れば良いのだろうか?



銀朱
どこに座ればいい。
アネ
あぁ、銀朱は___



アネがぐるりと部屋を見渡す。



コダマ
俺の隣、か。
アネ
そうね。



たった一つ空いていた席、コダマの隣に座ることとなった。




アネ
…それじゃあ、改めて。
チーフ会議を始めます。



どうやら、この会議というやつはアネが仕切っているらしい。



アネ
とはいえ、今日は普通の会議とは違うわ。
特別なお客様、「銀朱」がいらっしゃるからまずは自己紹介ね。



アネは一息ついた。



アネ
知ってると思うけど、私はコントロールチームのチーフ、アネよ。
コントロールチームはアブノーマリティの管理作業の立案、指揮を行ってるの。




これは銀朱はすでに知っていることだった。



多分、この調子でいけば皆は名前とチーム名、そのチームの詳細を語ってくれるのだろう。



こうやって過ごしている時間にも見学は進んでいると考えると、知識の遅れが不安だった。



が、どうやらその問題は解決されそうだ。



クロウ
私は情報チームのチーフ、クロウです。
情報チームはアブノーマリティの情報を集め、対処方法を検討しています。



クロウは律儀に礼をした。


この場に来てますます思ったが、クロウという奴はかなり真面目でまともだ。



一方、それ故に様々なことに振り回されて「苦労」もしてそうだな、と銀朱は考えていた。


これは偶然なのだろうか?



ゲッカ
次は私!
教育チームのチーフ、ゲッカ!
教育チームは新入社員の教育、職員の状態のチェックを行ってるの!




テッセンとやらと会って「栄養補給」をしたからだろうか。



ゲッカは先ほどとは打って変わって大変ご機嫌だった。



よくよく見れば、顔は可愛い。


顔は。



テッセン
俺は____テッセン。
安全チーフ。
危機状況に備えて戦略を樹立、指針の制定__。
施設の職員の安全のためになんかする。



テッセンは虚ろな目でそう言った。



ゲッカから栄養補給され、栄養を失ったから、という理由でも納得はできそうな雰囲気だった。



コダマ
オレは……コダマ。
中央本部チームのチーフ…。
部署を制御、監督して効率的な管理の研究をしている。




コダマは死にそうな目で言った。




この部屋に来て以来、欠伸を繰り返しているあたり睡眠不足なのだろうか。




よくよく顔を見ればクマもある。



オトネ
次あたし。
懲戒チームチーフ、オトネ。
職員だとか、アブノーマリティに「罰」を下してんだ。




やや乱暴な言葉遣いでオトネは言った。




暴力的。



力しか誇れるものがない銀朱にとってそれはとても煌びやかに見えた。



ローベ
次は……俺だね?
福祉チームのチーフ、ローべ………って言うんだったっけね?
福祉チームは医療に特化したチームだよね?




だよね?と言われてもわからねぇよ、と銀朱は心の中で言う。




どうやら、このローべと言う奴は何かと自信がないらしい。




話すこと全てに疑問符が付いている。



自信がないと言うのは、保証はしないということ、ともとれるだろう。




となれば、悪い言い方をすればローべは「無責任な奴」ということか。




コイツは要警戒人物かな、と銀朱は頭の片隅に置いた。



スノウ
スノウ。
抽出チームのチーフ。
物理的資材の管理とアブノーマリティの確保と配置。




顔の見えないスノウは、淡々と述べた。




その声に温もりを感じることは一切なく、ただ情報だけが伝わって来た。



カル
次はオレ、カルだぜ!
記録チームのチーフなんだぜ!!
あっ、記録チームってのはその名の通り、全ての出来事を記録するチームなんだぜ!
昇進もここによって決まるんだぜ!




今度はだぜだぜうるさい奴が話した。



昇進は記録チームとやらで決まると言っていたが、リーダーがこんなので大丈夫なのだろうか?



賄賂とかあげただけで上がりそうだな、とか銀朱は妄想した。







レン
最後は俺っち~~!レンだよ~~!!
俺っちは建設チームのチーフ~!
仕事内容?ん~~……なんだろねぇ?




一番納得のいかない説明だった。



自分がリーダーを務めているにもかかわらず、何をしているかが理解できない?




それは世界で二番目ぐらいによくわからないことだった。



何をしているのかわからないということは、普段意識をなくして業務を行っているということ?それとももしかして人格がいくつかあるとか?




そもそも、意識なしでできるほどの簡単な仕事なのか?




もしかして、建設チームは独裁国家みたいになってて、レンはただ上から伝えられた命令を淡々と言うだけだからわからないとか?



銀火の頭の中は疑問符100%だった。



アネ
さて、最後は銀朱。
あなたの自己紹介よ。




アネに名前を呼ばれてハッとする。



銀朱
___銀朱だ。
入社同期は……まぁ…………そうだな、銀白を求めてってのと興味ってのだな。
話を聞く限り、懲戒チームってのが良さそうだなとは思ってる。




それだけ言って銀朱は口を噤んだ。


オトネ
あー……歓迎したいところだけど、施設破壊とかすんなよ?
銀朱
流石にしねぇよ。
オトネ
いやぁ、やりかねない。
銀朱
ひでぇ偏見だ。
アネ
まぁまぁ…………。
それと、クロウ。



今まで真顔でいたクロウに話が飛び、クロウ本人は少々驚いた顔をした。




クロウ
なんでしょう?
アネ
なぜ銀朱がここに来ているのかという説明をしてもらってもいい?
私、まだ分からないから。
クロウ
承知しました。



クロウはアネから全体へと視線を移した。


クロウ
銀朱を誘ったのは簡単です。
ランクⅤと、チーフと同等の実力を持っているからです。
アネ
なぜ、それが分かるの?
クロウ
銀朱であるから、でしょうか。
クロウ
また、酷いことを言ってしまえば白幽はくゆうの代わりとも言えるでしょう。
レン
えぇ〜〜!?
黒幽こくゆうがいるじゃぁ〜ん!



レンが言った後、そこには少々気まずさが出来た。


ローベ
そう思ってるの、多分レンだけだよ……?
レン
えぇ~~!!うっそだぁ~!




レンの場違いさというのは、その白幽だとか黒幽だとかを知らない銀朱にも伝わってきた。







その空気を正すかのように、クロウ咳ばらいを一つ入れた。





クロウ
まぁ、興味本位というのもあります。
銀朱が一体どういう人物なのか、どういうステータスなのか。
事前に把握し、周知しておく必要があるかと思いまして。
ゲッカ
ふぅん。
まっ、いい判断なんじゃない?
とりあえず自己紹介も事情も話し終わったしさ、今日はまったりご飯でも食べなぁい?




ゲッカがにっこりとする。




アネはまだ話したそうだったが、他全員は無口、もしくは賛成の意を示していたのでアネは諦めて同意をした。





銀朱は他の者も食べ始めたのを確認した後、唐揚げを1個、口の中に放り込んだ。











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