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第4話

第4話 「境界線」
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2026/01/19 09:24 更新
部屋に戻されてから、どれくらい時間が経ったのか分からない。
天井の照明は一定の明るさのままで、昼も夜も区別がない。
私はベッドに腰掛け、指先を強く握りしめていた。

――許可。
その言葉が、頭から離れない。

ドアの向こうで、電子音が鳴る。
次の瞬間、静かに扉が開いた。

ジャンハオだった。
手にはトレー。食事らしい。
ジャンハオ
ジャンハオ
食べられそう?
あなた
……聞く意味あります?
そう返すと、彼は少しだけ目を細めた。
怒っているわけじゃない。観察しているだけ。
ジャンハオ
ジャンハオ
拒否も選択肢だよ
あなた
じゃあ、拒否します
私は即答した。

ジャンハオは一拍置いて、トレーを机に置く。
ジャンハオ
ジャンハオ
分かった
あっさり引き下がられて、逆に戸惑う。
ジャンハオ
ジャンハオ
でも、その場合は点滴に切り替える
あなた
……それ、拒否じゃないですよね
ジャンハオ
ジャンハオ
生理的な安全は、君の意思より優先される
理屈は正しい。
でも、納得はできない。
あなた
先生は、私のどこまでを管理するつもりなんですか
ジャンハオは椅子に座り、静かに答える。
ジャンハオ
ジャンハオ
全部
即答だった。
ジャンハオ
ジャンハオ
睡眠、食事、行動、感情の変化
あなた
感情まで?
ジャンハオ
ジャンハオ
感情が一番危険だから
胸の奥が、ひくりと痛んだ。
あなた
……私、モノじゃない
そう言うと、ジャンハオは初めて、少しだけ困ったような表情を見せた。
ジャンハオ
ジャンハオ
分かってる
あなた
じゃあ、どうして
彼は立ち上がり、私の前に立つ。
距離が近い。
逃げ場がない。
ジャンハオ
ジャンハオ
君が“人”だからだよ
低く、静かな声。
ジャンハオ
ジャンハオ
壊れる可能性があるし、守る価値もある
その言い方は、
やさしいのに、選別しているみたいだった。
あなた
……私を、信じてない
ジャンハオは首を振る。
ジャンハオ
ジャンハオ
信じてる。ただし――
一瞬、言葉が切れる。
ジャンハオ
ジャンハオ
君が自分を制御できるとは、まだ思ってない
沈黙。
私は、ゆっくり息を吸った。
あなた
じゃあ、境界線を決めましょう
彼の視線が、私に戻る。
ジャンハオ
ジャンハオ
何?
あなた
先生が踏み込んでいい線と、ダメな線
少しの間、彼は何も言わなかった。
やがて、静かに口を開く。
ジャンハオ
ジャンハオ
君がそれを決める権利があると思う?
あなた
あります
即答した。

ジャンハオは、ほんのわずかに笑った。
ジャンハオ
ジャンハオ
……いいよ
意外な返事。
ジャンハオ
ジャンハオ
じゃあ、ひとつだけ認める
あなた
なにを?
彼は私をまっすぐ見つめる。
ジャンハオ
ジャンハオ
君の“心”に、俺は許可なく触れない
その言葉に、なぜか背筋が寒くなった。

――今の言い方。
まるで、
触れること自体は、できるみたいじゃない。
あなた
……本当に?
ジャンハオ
ジャンハオ
約束する
穏やかな声。
でも、その奥にあるのは、計算か、誠実さか。
ジャンハオ
ジャンハオ
ただし
やっぱり、条件がつく。
ジャンハオ
ジャンハオ
君が自分から差し出すなら、話は別だ
私は、何も答えられなかった。

ドアが閉まる直前、ジャンハオが振り返る。
ジャンハオ
ジャンハオ
食事、冷める前に
優しい声だった。
だからこそ、怖かった。

――境界線を引いたはずなのに、
もう、その内側に立たされている気がした。

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