第16話

封印された苗字
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2026/02/12 09:29 更新
学園長室


あの美魔女、リュミエール様がいつもよりずっと真剣な顔で、一枚の古びた写真と書類をデスクに並べていた


つむぎ:……あの、学園長? 出頭命令って……私、また何かやらかしました?


学園長:いいえ、つむぎ。今日はあなたに、あなたが背負っている「重み」を教えに来たの


リュミエール様は、隣に控える巨大な執事・ヴォルフに目配せをした。ヴォルフが無言で差し出したのは、私の母にそっくりな女性が写った古い肖像写真だった


学園長:あなたの苗字「花咲」は、ただの屋号ではないのよ。……かつてこの学院を共に創設し、そして悲劇の末に歴史から消された、もう一つの「リュミエール」。それがあなたの一族なの


つむぎ:……は? 私が……名家のお嬢様?


つむぎ:冗談でしょ! 私、うどんの湯切りで手首鍛えてるような庶民ですよ!?


学園長:嘘ではないわ。……聖、あなたから説明しなさい。……いつまでその「首輪」で、彼女への真実を隠しておくつもり?


聖:…………


九条くんが、一歩前に出た。 彼はいつもの不敵な笑みを消し、ひざまずいて私の手を取った。その手は、かすかに震えているように見えた


聖:お嬢様。……私があなたを「お嬢様」と呼ぶのは、契約だからではありません。……代々、私の家系は「花咲」の主をお守りするために存在しているからです


つむぎ:九条、くん……?


聖:私が初めてあなたに会ったのは、あのうどん屋ではありません。……十年前。あなたがまだ何も知らず、炎に包まれた屋敷から逃げ出したあの日……。私は、あなたを見失った


つむぎ:……炎? 何の話? 私、実家のうどん屋で平和に育ったんだけど……


私の頭の中に、断片的な映像がフラッシュバックする。 真っ赤な空。泣き声。そして……誰かが私の手を引いて、「逃げなさい」と言った声


聖:……お嬢様を保護し、庶民として隠し通したのが、今のご祖父様です。……私は十年、あなたを探し続けました。……そして、あのはなまる屋で、うどんを豪快に啜るあなたをようやく見つけた時……


聖:……私は、二度とあなたを離さないと誓ったのです


つむぎ:……じゃあ、一話で言った「マヌケな顔」って……。つい最近のことじゃなくて……


聖:ええ。十年前、泣きじゃくっていたあなたの顔ですよ。……少しも変わっていなくて、安心しました


九条くんはそう言うと、首元のネクタイをゆっくりと外した。 そこにあったのは、昨日見たアザ。……いいえ、それはアザではなく、「花」の形をした、痛々しいほど鮮やかな刻印だった 


聖:これは花咲家の守護者の証。……この命が尽きるまで、私はあなたという主から逃げられない。……いえ、逃げたくはないのです


つむぎ:…………


頭が真っ白になった。 お嬢様? 宿命? 刻印? 全部、うどんの出汁よりもずっと濃くて、飲み込みきれない事実ばかりだ


つむぎ:……勝手だよ。勝手すぎる。……私をそんな重い運命に巻き込んで、自分だけ「お守りします」なんて、かっこいいこと言って……! 


私が叫んだその時。 ドォォォォン!! という地響きと共に、学園の正門が爆破される音が響いた


ヴォルフ:…………!(即座に学園長の前に立ち、武器を構える)
 

聖:……来たようですね。お嬢様の血筋を、そしてその「遺産」を狙う、ハイエナたちが


九条くんが立ち上がり、私を背中に隠した。 彼の背中から、今までとは全く違う、氷のように冷たい殺気が溢れ出す


聖:お嬢様。……これからは、綺麗事だけでは済みません。……どうか、私から目を逸らさないでください


つむぎ:……九条くん!


私の平凡な毎日は、音を立てて崩れ去った。 「うどん屋のつむぎ」ではなく、「花咲家の当主」としての、本当の戦いが幕を開けようとしていた

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