第14話

2018年京都合宿②
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2026/06/29 08:20 更新


























いつからだろう、

















タツ、いや皆と一緒にいるのが辛くなったのは。


そんなことを考えていると、腹の底から何かがせり上がってくる。




初めて吐いたのは高2の夏だった。
皆とのバレーに対する熱量の差が、俺の中で明確に見え始めた時期。
最初はただの夏バテと疲労だと思ってたけど、次第に頻度が増えてきて毎日吐くようになってしまった。
出した分を補完するように食べる量は増えていった。




でもそんな無茶をしていたら体にガタが来るわけで。
高校生に入ってからも身長は伸びたけど、体重が増えない。
ウエイトを増やしても次第に細くなる手足。
高2の冬あばらが浮いてきたときはさすがにやばいと思った。


それは数字にも出て、高3の春の健康診断でひっかかった。
細田先生にも伝わって部活前に初めて呼び出された。



細田監督「どうしたん、これ。」

健康診断の結果の書類を出される。

鴇崎『…最近よく吐いてしまって。』

細田監督「体調はどうなん」
鴇崎『大丈夫です。』
細田監督「無理に食トレしとるわけでもないんやな?」
鴇崎『はい。』

細田監督「鴇崎はチームに必要やから、お前の言葉を信じる。体調管理はしっかりせぇ。」
鴇崎『はい。失礼します。』





大塚「なぁなぁトキってなんかやらかしたん?」
中島「龍じゃあるまいし進路とかじゃないんか」
山本「不名誉なこと言うな」









春の京都合宿。




…もしかしたら、今日は吐かないでいけるかも。
毎日そう思う。でも、毎日トイレで跪く。

お前らと一緒にバレーしててごめん。わかっているのに逃げるほどの勇気もなくてごめん。騙しててごめん。

そうやって、許しを乞うように。









三浦「え゛、トキさんまだ食うんすか」
おかわりしたご飯をよそって席につくと、一年の三浦が信じられないという目で見てくる。
鴇崎『これぐらい食っとかないと後でお腹空いちゃうんよ。』

…半分吐いちゃうから結局は皆の量とさして変わらんし。

大塚たちが話していることに適当に相槌を打っていると、遠くからの視線に気が付いた。
誰やっけ…あ、藍か。
本人はバレてないと思ってるみたいやけど、普通に気付く。恥ずいからやめてほしい。









食後30分以内には大体吐き気がする。
無理に抑えてると気づかれるから、なるべく早くトイレに向かう。





バレないように声を潜めて、電気も点けず真っ暗なトイレで吐く。
胃の重さが半分くらいになったら自然と収まってくるけど、今回はちょっと長い気がする。
…久しぶりにセッターやったからかな。
吐き終わって口をゆすいでいると、げっそりした自分の顔が鏡に映った。



…きっつ。


結構時間が経ってしまった。早く戻らないとと思いトイレの曲がり角を曲がった途端、人がいた。


藍「え、トキさん?」





まずい、まずい、まずい。聞こえてた?バレた?

なんか話してるけど、そんなの聞こえない。
俺の脳はこれをどう処理するかにしか動かない。
これは声が大きいし、人を呼ぼうとしている。都合が悪い。

視界の端にあった給湯室に押し込んで口を塞ぐ。
…話し声は、よし、聞こえなくなった。

抑え込んだそれに目を向けると、ようやく誰だかわかった。
面識があるだけに、対処に困る。


藍「そんなにしょっちゅう吐いてまうんですか?」

今この状況の俺に話しかけるか普通?気まずいとか思わへんのかなコイツ。


藍「もしかして人一倍メシ食べるのって…」

答えないと一生質問攻めなんやろな。

鴇崎『どうせ半分くらい出してまうから。』

藍「毎日?」

頷く。
どないしよ今藍の相手する余裕ないねんけど。

藍「トキさん、あんた、」












藍「バレー楽しくないでしょ。」
気が付くと藍を壁に押し付けていた。
落ち着いてきた頭に一瞬で血がのぼる。


絶対言われたくない言葉を藍に、部外者に言われてしまった。
熱量の差さえあれど、自分はバレーを楽しんでいると自分自身に信じ込ませていた。
そうでもしないと耐えられなかった。


ぎちぎちと手首をつかんで藍を見下ろしていると、藍は見つめ返してきた。
その純粋な目を見ているとなんだかおかしく思えてくる。

…ああ、藍は俺を傷つけたい訳じゃないんだ。
脅威ではない。たまたま居合わせただけの人間。
コイツは、関係ないのだから。



手を離して給湯室を出ようとすると、藍に呼び止められた。

…お前がチクったところでタツが信じる訳ないだろ。なんか自分勘違いしとるんちゃう?



鴇崎『大塚は信じないよ、絶対。』

藍「なんでそんな言い切れるんですか…!」







鴇崎『大塚は、トキのことなら全部知ってるって思っとるから。』
  

だって、それだけ一緒にいたから。


  『トキに異常があったら自分が一番早く気付く、俺が気付かない訳ないって無意識の内に思っとるから。』


それだけ、隠し通してきたんだから。



  『試しに言ってみれば?相手にされへんのちゃう?』










お前なんかが、踏み込めると思うなよ。






起床時間より30分程早く起きた。
布団の中にいても、どうにも眠れなくて食堂に向かった。




…昨日はやりすぎたな。ムカついて壁に押し付けるとかほぼ恫喝じゃん。まあ脅そうと思ってそうしたんだけど。それをチクられるとまずくね?てか気まず。たしか今日東山と試合多くなかった?あーかったりぃ。



ぐるぐると昨日のことが蘇る。
机に突っ伏して溜息を吐いていると、向かいの椅子が引かれる音がした。




藍「おはようございます。」

鴇崎『…朝からお前の顔見たない。』

藍「ふは、正直っすね。」



もう何なのこいつ。まだ朝の5時前だよね?


藍「俺ね、トキさんには楽しくバレーして欲しいんですよ。」

鴇崎「はい?」

訳がわからない。
思わず顔を上げた。

藍「やから、トキさんの思ってること、俺に話してください。一緒に考えましょうや。」



…このお人好しが。

どんだけ突き放しても、拒絶しても、歩み寄ってくる。
話の飛躍がすごいのは置いといて、
単なる好奇心とかじゃなく、本当に俺を見てる。

鴇崎『…ははっw』


呆れて笑ってしまう。
なんでこうも俺の周りは太陽みたいなやつばっかりなんだ。


藍「?何笑ってんすか」
鴇崎『…褒めてんだよ。』
藍「あざっす?」

鴇崎『…寝る前になったらここな。人いたらナシ。』

藍「ほんまですか⁉」
鴇崎『ばっか声でかいわアホ』




それに断ってもお前、絶対折れへんやんか。

大塚「二人して朝からなにやっとるん?」
鴇崎『俺が聞きたい。』
いつのまにかタツがやってきた。
  
大塚「…なして藍はそんなニヤニヤしてるん?っつうかそこそんなに仲良かったっけ。」
藍「んっふふ。いやぁ~事情があって~w」
鴇崎『お前調子乗りすぎ。絶対話してやんない。』
藍「そんな殺生な。」












そのまぶしさが、タツに似てると思ったのは気のせいだと信じたい。




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