そんな風に笑いながらあたしの席までやって来たのは、クラスメイトの百合花。
陽太はやれやれと言いたげに首を振った。
片手ではさっきあたしに殴られた頬を抑えてるくせに。
百合花ちゃん、そんな余計な事聞かなくてもいのに……。
そう思ってあたしはふてくされるようにしてこの後陽太が言うであろう言葉に耳を塞いだ。
名前の通りお日様が照りつけるようにニコッとした笑顔であっさりとそんなことを言ってのける陽太に、あたしは思わずため息を零した。
窓の外は曇天だ。それはまるであたしの心の中のように。
あたしは心からそう言うと、陽太は世界の終わりとでも言いたげに、ここぞとばかりにショックを受けた顔であたしを見てる。
陽太が可愛いとか、人気だとか、どう考えてもIT時代による視力の衰えか、温暖化効果かなんかで脳みそが溶けてるに決まってる。
百合花が不満そうな表情でそう言ったけど、あたしはもう聞こえないフリを決め込んだ。
ってか陽太と付き合うとか、冗談でしょ。
あたしは陽太が泣き虫で近所の家の犬に吠えらただけで泣いてる姿とか、オバケが怖くてお昼寝は一緒に寝ないと眠れないとか、そんな姿を見て育ってるんだから。
そんな陽太に男を感じろって方が無理に決まってる。
あたしが笑顔で手を振ると陽太は恨めしそうな目であたしを睨みつつ、その場から動かない。
あたしが追い払うみたいに手を振ったのが気に食わなかったのか、更に泣きそうな表情でおずおずと教室を出て行った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!