お腹がはち切れそうなほど、膨れたお腹を抑えながら、あたしは先輩に向かって頭を下げた。
映画の後、あたしと先輩はファミレスで夜ご飯を食べた。
ファミレスでも先輩は相変わらずかっこよくて、店員やお客が先輩へと視線を向けてると気づいてからはずっと隣の席に座ってた。
今だって家まで送って貰いながら左手には先輩の大きな手があたしの手を包んでくれている。
あたしももっと先輩と一緒にいたい。そう思って先輩の肩に身を寄せた。
するとーー。
そう言いながら先輩はあたしの肩を掴んで、あたしをその大きな体の中へと引き入れた。
その勢いのまま、あたしをギュッと抱きしめている。
思わず嗚咽を漏らしてしまい、あたしは慌てて笑顔を取り繕った。
あたしはあははと笑ってみせた。
先輩は腕の力を緩めて、今度はそっと抱きしめてくれている。
あたしは固まってされるがままだ。
すると、今度は先輩があたしの一つに結んでいる髪に触れて、その髪と戯れるようにキスをした。
あたしは口を開けずにただ黙って目を閉じた。
呼吸も止めて、ただ静かにその時を待った。
先輩の声がすぐそばで聞こえる。
さっきよりもずっと近くに感じる。
先輩の吐息があたしの顔にかかって、あたしは再びキュッと全てを閉じた。
そう思った時だった。
陽太の声に驚いて、あたしは思わず目も口も、全てを全開に開けた。
先輩も目を閉じかけていたのに、パッと目を開いた様子があたしの目に飛び込んできた。
あたしは条件反射とも言うのだろうか。気がつけば、先輩から飛びのいていた。
陽太は玄関からすぐそばにある柵に体を預けながら、隣を親指で指差した。
そう、陽太の家はあたしの隣なのだ。
先輩は再びあたしの体を引き寄せて、ギュッと抱きしめた。
再び嗚咽を漏らしてしまったけれど、今度の先輩はそれどころじゃない様子。
陽太を睨みつけながら、あたしの頭に顎を置いた。
それ、陽太の嘘です。
ウチの父は普通のサラリーマンで、全然ヤクザでもなければ刺青なんて一つもない中肉中背なおじさんです。
むしろ母に尻に敷かれてるくらい、優しい父です。
……そう言おうとしたのに、先輩は慌てた様子であたしの体から身を離した。
先輩は一度陽太を睨んだ後、そのまま去って行った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!