第22話

えんちょう。誕生日記念2
72
2022/09/12 07:21
私の気分は今、とても綺麗に落ち込んでいる。
販売機を直してもらったのにも関わらず、お礼もせずすぐ立ち去ろうとしたえんちょのせい。
はぁ、お礼くらいしろって!

そうして落ち込んでいた心は、またもや綺麗に海の底にぶち投げ出された。
『30分』という待ち時間を知ったからだ。

えんちょったらぁ…………!
今から楽しい楽しいデートが始まるというのに!

えんちょは携帯をいじり始めたし………今は構ってくれそうにない。
ここで携帯をいじり始めるのも申し訳ないので、私は仕方なく広告を見ることにする。

………暇だなぁ。
多分まだ5分くらいしか経っていないというのに、携帯を使えない&彼氏との会話もないとなると、
相当過酷なものだ。

なんとかしてくれ、お願いだ。
5分も待てないなんて………あー、なんか虚しくなってくるわ。

暇だなぁ、なんて思いながらぼーっとしていると、首と肩が急に暖かくなった。
あまりにいきなりの出来事に、防衛本能が働き少しずらす。

でも隣にいるのはえんちょだけだし、左側は壁(?)なのでそうなると………。
私は猿より遅れて理解をした。

今、首と肩にあるのはえんちょの腕だ。
となると………私は今、肩を組まれている。
あなた
ヒッ………///
電車だから、大きな声は出せない。
恐る恐る右を見ると、えんちょは何事もないように携帯をいじっている。

何………何してんのホントに。ねぇ。
いくら空いてるとはいえ、多少人はいる。

これは………リア充排除組の視線が気になるな。
 
向かいには、運悪くJ &K2人組の姿が。

最悪だ、最悪すぎる。

予想は的中。
目の前からジトーッと睨んで隣の子とコソコソ何か話している。

えんちょも薄々気づいているんだろう。
睨み返していないと良いが…………

だめだ、諦めよう。

えんちょは私のほっぺをグニグニ摘みながらJKを睨んでいる。
やめてくれ……もうこれ以上ここの印象は悪くしないでくれ………
あなた
ちょ……えんちょ!
小声で話しかける。
するとえんちょは我に返ったのか、『はっ』と小さな息を吐いて携帯をいじり始めた。
あー、もう無理。帰りたい。 

少しすると、今度は私の頭をワシャワシャと撫でくり回してきた。
………おい、せっかくセットしてきた頭だぞ。やめてくれ。

そしてまたリア充廃棄組の視線が浴びせられる。
あなた
うぅ………
情けない声を漏らす。
………そう、私は人の視線が大の苦手。

ただでさえ嫌だというのに睨まれたら………!
マジでたまったもんじゃねぇよ。

だけどここは電車。
さっさとえんちょを怒鳴り散らかしてボコボコにぶん殴りたい気持ちをなんとか抑える。

ここでやってしまっては一気に有名人だ。
悪い方の。

視線嫌だし髪ボサボサだし………!
もうやだ帰りたい。

ワシャワシャが終わったと思えば、膝の上にあった私の手を握ってくる。
これは今までと違って、しっかりと体温が伝わってくる。

私の体は硬直し、顔から火が吹き出そうだ。
やばい、これは抑えなければ。

もう何を何回抑えてるか分からなくなってくる。
帰りt……(((

石のように固まった体をなんとか動かす。
横を見ると、えんちょの頬も少し、赤くなっていた。

……なんだ、お前も照れてるではないか。

謎の安心感と優越感を感じたからか、緊張が和らいできた。
……おいさっきの火、お前の出番はもうないぞ。
駅員
次は〇〇〜〇〇〜
あ、次だ。

さっき作戦を思う存分に楽しみながら実行した。
んまぁ、途中少し緊張したけど………ね。

それも無事終わり、次の駅は目的地なのである。
だってのに………
あなた
かぁー…………
あなたの下の名前は、爆睡。
やめてくれ、車内で爆睡は良くない。本当に。

嫁にいけないぞ。
……あ、いける。俺許す。

下手に妄想しながら、あなたの下の名前をゆする。
起きてー、起きてー、起きてー、………起きろ。
えんちょう。
………あの、起きてくださーい
あなた
んぁ?
変な声を出して、起きた。良かった。
危うく帰るところだった。
えんちょう。
もう次だから………って!
服乱れすぎだろ…………///
胸元のボタンは2、3個外れている。
あぁ………なんか、結構セクシーな感じだぞ、これ。

別に、変態とかではない。別に。

若干周りの視線を気にしつつ、俺の上着をさりげなく被せる。
このなんか………こんなのを見られてしまっては、俺の嫉妬心が再び爆発する。
えんちょう。
あなたの下の名前…服、服直して!
小声で教える。
……だけど本当に爆睡していたようで、何も分かっていない。こいつ。

俺はなるべく変態っぽく見られないように………
いや、変な態度の人にならないように胸元から目を逸らしつつ、上着を被せ続ける。
あなた
えぇー?
もう何…………っ!はっ!
ようやく自分のヤバさに気付いたのか、あなたの下の名前の顔は一気に赤くなっていく。
………もっと早く気付いてくれ。バカが。

心の中で少しキレつつも、あなたの下の名前の恥ずかしそうな顔を堪能する。
うむ、いいおかずだ。

……おっとおっと!これでは変な態度の人間になってしまう。
危ない。

色々なことに注意しながら待っていると、あなたの下の名前が俺の上着を退けた。
胸元を再確認。

ボタンはしっかりしまっていた。
俺はそっと上着を外す。
あなた
もぉ………何してんの………?
えんちょう。
はぁ!?
こっちのセリフだわ。
寝起きの彼女が車内で服乱れてたら誰でも変な態度の人間になるわ。
えんちょう。
何って………
駅員
〇〇駅ー〇〇駅ー
あなた
あ!着いたんじゃない?
えんちょう。
声でかい………って………
あなた
それはえんちょでしょ!?
えんちょう。
んもぉ……いいからさ!
降りよ!ほらね??
あなた
むぅ……分かったよ。降りよう

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