“ソレ”はいつからかそこにいて、特段楽しい事もなく、ただぼんやりと、過ぎてゆく時間を眺めていた。
ある日、いつものように“ソレ”は花畑の中にいた。
ここにはそういう場所が沢山ある。
特別好きというわけでもないが、他の場所よりいっとうぼんやりできる気がして、気に入っていた。
他の人も来ないし、静かだからだ。
「ねぇ君、いつもここ居るの?」
ふと気がつくと、後ろに人が居た。
くすんだ水色の瞳に青みがかった銀髪の美丈夫だ。
「誰?」
久方ぶりに動かした唇は警戒の言葉を紡いだ。
「僕はルーシュ。.......君は?」
名前。そんな物、どうでもいい。所詮人間の付けた、低俗な物だ。
「名前は、ないから、あなたの好きなように呼べばいい」
ルーシュはんー、と考える仕草をした。
「サラ」
「どうして?」
「なんとなく」
ルーシュが地面に咲いている黄色いゼラニウムを取ってくるくると回しながら答えた。
「ふぅん」
それからルーシュは何故か毎日サラの所に来た。
暇だったし、別にいいかな、とサラは思った。
「知ってる?僕たちはね、悪いことをすると、あくま、っていうのになっちゃうんだって」
「ふぅん」
嫌な響きだね、とルーシュは笑った。
ルーシュはよく喋った。
他愛もないことをよく話した。
私と喋っていて楽しいのかと思ったが、楽しそうだし、いいか、と思っていた。
「格好いいよねぇ」
「え?」
ぼーっとしている間に話が進んでいたのだろうか、ルーシュがサラに言った。
ルーシュは少し呆れた様に笑った。
「だから、女王様はね、じぶんの事を、わらわ、って呼ぶんだって」
「格好いいね」
「でしょ」
ルーシュにサラが言葉を返すと、いつも、ルーシュは嬉しそうに笑った。
笑ってくれるのが、少しだけ、花畑にいる時みたいに、心地よかった。
ルーシュが編んでいたスイートピーの花冠をサラの頭に載せた。
くすくすと笑いながら
「似合ってる」
と言った。
ああ、やっぱり花畑みたいだ、とサラは思った。
「ねえ、サラはさ、誰かに憑いたら、どうする?」
ある日、おもむろにルーシュが訊いた。
「“オトウサマ”がね、僕たちをね、人間を護るように、人間を選んで憑かせるんだって」
ルーシュが辺り一面に咲き誇るベゴニアを眺めながら言った。
「ふぅん、なら私は、その人間をどうやっても護りたい、かな」
前も、そうしたように。
ルーシュの顔をぼんやりと眺めながら答えた。
ルーシュの顔は綺麗だ。
綺麗な顔が嬉しそうに笑みを浮かべた。
「だよね、絶対、護ろうね」
約束、とルーシュが小指を差し出した。
細い白い指にサラは自分の小指を絡める。
ルーシュがゆびきりげんまん、と笑った。
いつからか、ルーシュがサラのもとに来なくなった。
他に好きな場所でも出来たのだろうか。
彼が楽しそうならそれでいい。
それで、いいのだ。
ただ、ルーシュのいない花畑は少しだけ、華やかさが足りないように思えた。
「サラ!」
後ろから声がする。
聞き慣れた声。
私を唯一サラと呼ぶ人の声だ。
「ルーシュ」
ルーシュは走ってきたようで、綺麗な銀髪が乱れていた。
「僕ね、人間に憑くことになったんだ」
息を弾ませながらルーシュが言う。
その声からはこれからの未来への期待が滲み出ていた。
なんとなく、ルーシュはもう、ここには来ないのだろうな、とサラは思った。
サラが黙っているとルーシュがごそごそと服をまさぐった。
「これ、餞別。あげるよ」
ルーシュははにかんだ。
やっぱり、花畑みたいだ、否、花畑よりも———
「行かないで」
気がつくと、ルーシュの服の裾をつかんでいた。
「サラ?」
自分でも何をしているのかよくわからない。
それでも、ただ、ただ、行かないで欲しい。
「ごめんね、サラ。僕は行かなきゃなんだよ」
サラの意思と関係なく涙がボロボロと溢れて止まらない。
ルーシュがふわりとサラの頭を撫でた。
「また、逢えるから」
サラの手に強引に何かを握らせた。
「じゃあね、サラ」
ルーシュは少し寂しそうに笑った。
行ってしまう。
行ってしまうのに、サラはその場から動けなかった。
ルーシュが去ってからどのくらい時間が経っただろうか、涙も枯れてしまった頃、己の手を開くと、そこには赤い菊の耳飾りがあった。
ぼんやりと、幾年か過ごした後、気がつくと、人間の住処にサラはいた。
木でできたベビーベッドに小さい赤子が眠っている。
小さい、とサラは思った。
ふと、赤子と目が合った———もっとも、赤子は私のことが見えない筈だからたまたまだと思うが。
くすんだ水色の瞳をしている。
ふと思い出した。
『約束』
ゆびきりげんまん、とルーシュは笑った。
私は、この子を何があっても護る。
だって、彼と約束したから。
なんとなく、つけていなかった赤い菊の耳飾りを、
サラは自分の耳につけた。
再び眠った赤子に口付けを落とす。
「おやすみ、私のご主人様」
みんなの料理に対する認識(?)
ノアくん:お料理特異なんです!
シルラさん:好き。お母さん。
サラちゃんさん:食べる必要ないから作ったことない。
ルルさん:未知数
グロース(?)さん:得意
ルーシュくん:作ったことないけど作ったらたぶん
美味しい
ということで
作者の時空ではまだ10話しか公開されてないんですが
20話まで読んでくださりありがとうございます
これからも結構続く予定なので
ごゆるりと











編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。