どうしたって、敵わない相手。
そんな人間が居ることを、シルラは初めて理解した。
前までは分かっているつもりでいた。
どのくらい魔法を撃ち続けただろうか。
一日、或いはもっとだ。
こいつを殺せば沢山人が死なずに済むのに、
ずっと楽しそうに呪いを撃ってくるこれをどうやって殺せばいいか皆目検討がつかなかった。
殺したい。
どうしようもなく殺したいのに、殺せない。
それにもう、シルラの周りに魔力が殆ど無かった。
あると思ってもそれは取り込めなかった。
おそらくエルバに既に支配されている魔力だからだ。
わたしの周りの魔力を使えなくするなんて何といやらしい事か。
「楽しいね、マイハニー」
シルラがこれからどうしよう、とエルバの呪いを避けつつ考えていた時エルバが言った。
楽しい?
ふざけたことを。
魔力だって無いのに。
殺したい人も殺せないのに。
どうしたって、敵わないのに。
ふと、視界の端に湖が映った。
水にも魔力はある。
随分前にグロースに教わった事だ。
「水を浮かす魔法」
気づけば、そう口にしていた。
分厚い水の壁は、呪いを防いでくれた。
そのまま壁の向こうから魔法を撃てばよかったのだ。
それなのにシルラは無意識に走っていた。
その時にまたね、と聞こえた気がした。
後から幾度となく後悔した。
あの時もっと魔法を撃ち続けていたら。
逃げなかったなら。
わたしがもっと強かったなら。
そうしたら、死ななくていい人が殺されずに済んだかもしれない。
十年前も、この時も、わたしは何も出来ないのだ。
そんなわたしに、呪いの家の末裔を殺せなかったわたしに、魔法協会にいる資格も、二つ名を持っている資格もないと思った。
だから魔法協会を辞めた。
魔法協会からの糾弾からも、逃げたかったのかもしれない。
ある時、魔法協会を辞めて日が浅い頃、ウォーロックを殺した時だ。
ひとりだけ村で生き残っている子どもがいた。
ただの子どもだった。
「ウィッチさん、頭に何か付いてます」
わたしが頭に着けているのはバレッタだけだ。
普通の人から見たら。
もし、そうなら、もし、彼がわたしの変化魔法を見破ったなら、運命だと思った。
ネリーアが味方してくれたと思った。
わたしが持っていないものを持っていた。
わたしがすべき事は、これを育てる事だ。
幸い魔法協会にいた時に一生遊んで暮らせるくらいのお金は貰っていたから金には困らない。
わたしが付きっきりで教えればいい。
聖霊は強いから、魔法を撃つ速度を速くすればいい。
そうすれば、いずれエルバをも殺せるくらいにはなるだろう。
わたしがすべきことはあの子にエルバを殺しやすいように、殺したいと強く思わせるようにすることだ。
それがわたしが唯一やれることだから。
ある時、聞かれたことがあった。
ごく普通に、ただ疑問に思ったから聞いただけのような言い方だった。
「なんでそのカーディガン、肩まで羽織ってないんですか?寒くないんですか?」
「...さぁな」
本当は分からなくない。
中途半端にしか羽織れないのは、お母さまは相討ちになってでもウォーロックを殺したのに、わたしには出来なかったのに、その形見を羽織る資格なんてないからだ。
逃げてばかりで何の役にも立てないからだ。
役に立とうなどと考えるのが烏滸がましいくらい。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。