第58話

親指の腹で拭って
5,993
2021/06/23 17:06











『バサリ、』










(え、)


頭に何か乗せられた重さを感じた瞬間、

視界上部からだらんと服の袖らしきものが降りて来た。


頭上に乗せられたものがこれ以上ずり落ちてしまわない様に慌てて押さえる。

思わず掴んだ布地を恐る恐る見てみる。



それは___




あなた
…、!





___私のセーラー服だった。




随分草臥れてしまった布地が、素肌を顕にしている私の肩や背中に触れる。

その柔らかな感触がどうも懐かしい。



頭上から垂れ落ちてきた袖口を退かすと、

見覚えのあるスニーカーが診察室の床に2つ揃って現れる。




頭からセーラー服を下ろすと、

すぐさま私の頭にセーラー服を被せた主が彼かどうかを確かめる為に顔を上げた。




オーバーホール
オーバーホール
お前が俺と再会した時、どんな顔をしていたと思う?




彼は顔を上げた私を見下ろしながら、静かに2度瞬きをした。



私は鼻からも口からも息をするのを忘れて、

整えられた顔に埋め込まれた黄色の瞳をただじっと見ていた。


オーバーホール
オーバーホール
怯えた表情の中で、俺を見て安心した顔をした。



目を逸らさない私の視線に、

彼はゆっくりと片掌を伸ばす。


オーバーホール
オーバーホール
俺を見て安心する物好きは居ない。



親指以外の4本の指を私の頬に添えると、

今度は親指を優しく私の目元に置いた。

オーバーホール
オーバーホール
お前が俺を目にして安心したのは、俺に対して自分を悪い様にしない筈だと無意識に判断したからだ。
現に俺はお前を殺したり、目を潰したりしていない。
あなた
オーバーホール
オーバーホール
それは間違いなくお前自身の判断だった。
だから、俺の手を取ったんだろう。
あなた
…!


私の目の縁に残っている露を拭うように、親指の腹で私の涙にそっと触れる。

白手袋の薄い布地の奥から、微かにオーバーホールさんの体温を感じた。

オーバーホール
オーバーホール
甘えるな、考えろ。
他の人間の目を当てにするな。
お前自身の見えているものが全てだ。


潔癖症だというのに、私の涙で濡れてしまった手袋を外す様子もなければ、嫌がる様子もない。

私の頬から手を離した後も、彼の大きな掌は私の頭へと向かい、

幾度か弾みをつけた後に、私の頭に置いた。

オーバーホール
オーバーホール
俺がしてやれるのはここまでだ。
後は自分で切り開いて見せろ。






私は何も応えず、視線の高さを元に戻した。




少し下を向いて、

目の端がヒリヒリと僅かに痛むのを堪えながら、


静かに………頷いた。









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こんにちは、

さくらどろっぷ.です🌸




考えていた予定のプロットにかなり細部まで手を加えてしまった為、

以前、読者の皆さんに予告していたシーンまで結局行けず…


とうとう最終章(?)に入ってしまいました!




ここまでお付き合い頂き、

本当にありがとうございます🙇🏻‍♀️"


もし宜しければ、

死穢八斎會と籠城さんの行く末をもう暫く見守って下さると幸いです‪⸜‪‪‪‪‪︎👍🏻‪‪︎⸝‬‪‪




最終章の予告も載せておりますので、

覗いてみたい方は是非下のURLをタップしてみて下さいねっ👀✨








さくらどろっぷ.






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