第59話

理由
5,760
2021/06/25 17:00
ミミック
ミミック
そういう訳で、お前とはお別れだ。
音本 真
音本 真
良かったな。若の計らいで漸く外へ出られるんだ、もっと喜んだらどうだ。
あなた
そ、それは…家に帰れる、って事?
ミミック
ミミック
それ以外に何がある。
いちいち聞くな、チビ。


どういう訳か、オーバーホールさんにセーラー服を渡されて、書斎に連れて来られるなり、突然別れを言い渡された。

あまりにも突然のことだったからか、思考回路はストップし、脳内は混乱の渦を巻いていた。

あなた
オーバーホール
オーバーホール
どうした、籠城 あなた。
ずっと帰りたがっていただろう。


(そっか。だからセーラー服を…)


私を屋敷から出すことが前提にあったから、さっき手渡したのだろう。

それなら急に私にセーラー服を返したのも納得がいく。


着替えている時に気がついたが、私が着ていた頃のセーラー服とは別物に見えるぐらい丁寧な施しを受けていたようだ。

色落ちやシワは一切なく、型崩れやスカートのプリーツの崩れも全く無かった。

裾や袖等のほつれていた部分や穴があいていた部分は丁寧に繕われていた。


(もしかして、クロノさんが直してくれたのかな…? 後でまた、お礼を言わないと。)

あなた
窃野 トウヤ
窃野 トウヤ
心変わりしたなら今しかねぇって。
言って損は無いと思うぜ?
あなた
窃野 トウヤ
窃野 トウヤ
な、そだろ?


私の隣にそっと歩み寄ったトウヤがそう耳打ちする。



私はトウヤと目を合わせるなり、

エグゼクティブデスクに肘をつき、黒いデスクチェアに腰掛けていたオーバーホールさんの姿へと直ぐに視線を移した。





『甘えるな、考えろ。
他の人間の目を当てにするな。お前自身の見えているものが全てだ。』




脳裏に蘇った彼の言葉を脳内でもう一度再生させながら、覚悟を決める。






___私自身が見えているものが、全て。





なら、


お父さんの私への愛も見えているのは私だけなはず。







馬鹿なのは分かっているけれど、

これを確かめられるのは " 私 " だけだ。




あなた
数日間、お世話になりました。

『スッ』

その場で頭を下げ、静かに私は言葉を続けた。

あなた
皆さんが良くして下さったお陰で、体調もこんなに良くなりました。
クロノスタシス
クロノスタシス
あなた
…正直、死穢八斎會はとても居心地が良かったです。
窃野 トウヤ
窃野 トウヤ
なら、
あなた
けど…言いましたよね、オーバーホールさん。


下げていた頭を上げ、真正面から彼を見つめる。

あなた
『甘えるな、考えろ。他の人間の目を当てにするな。お前自身の見えているものが全てだ。』、と。

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