第61話

施設
5,655
2021/07/28 01:00
クロノスタシス
クロノスタシス
…あなたさん、


落ち着いた声での呼び掛けが真正面から聞こえた。

声のした左方向へ顔を向けると、

オーバーホールさんの大きなデスクの隣に書類を持って立っているクロノさんが居た。

あなた
あ、あの!制服、綺麗にお手入れして下さって、ありがとうございました。


ぺこりと頭を下げると、

「いや、それは別に構いやせん。顔を上げて下さい。」と、少し早口になったクロノさんの返答が聞こえた。


ゆっくりと顔を上げると、彼は改めて私の立つ方向へと向き直っていた。

クロノスタシス
クロノスタシス
…本部長はああは言いやしたが、貴方の居場所は『お父さん』の元にしか無い訳ではありやせん。
あなた


クエスチョン』マークを頭上に浮かべながら、微かに首を傾げた。



そして、短い間を置いて、

クロノさんが何を言おうとしているのか、

何処を頼ろうとしているのかを悟って、


私は「待って下さい、」と先にクロノさんの話を止めた。

あなた
クロノさんは親族を頼れ、と言いたいんですよね?
クロノスタシス
クロノスタシス
あなた
例えば、


『お父さん』以外に頼れる人。

そうなれば、後はもう一方の親の選択肢しか残されていない。















あなた
母親、とか。














_____そう、『お母さん』だ。


でも、残念。

私には『お母さん』は居ない。


正しくは " 今は居ない " だけど。


あなた
私には母親は居ません。親戚も居ないので頼れる先なんて
クロノスタシス
クロノスタシス
それは把握済みです。
あなた


今度はクロノさんが私の話を遮った。

クロノスタシス
クロノスタシス
あなたさんに大人しく部屋で過ごして貰っている間に、色々と更に調べさせて頂きやした。
あなた
クロノスタシス
クロノスタシス
あなたさんの生みの親の情報は不明。
幼少期は施設で過ごしていた記録がありやしたが、その施設も現在人身売買の疑惑で検挙されて閉鎖されています。


(閉鎖、されてたんだ…。)


閉鎖された事を今更ながら知った。

人身売買と言っても、その施設が扱うのは大人ではなかった。







幼い子どもを品物とした、





人身売買。








とは言っても、きちんと売られたのは私以外の子ども達で、



『" 無個性 " 、だと?!そんなの、大損じゃないか!誰がそんなゴミを欲しがる?!』

『ならば、さっさとモルモットとして売ってしまいましょう。最低価格で設定すれば…流石に買い手はつくでしょうし。』



" 無個性 " の私はその子ども達の添え物でしか無かった。


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