夜
基地は、昼とは別の顔を見せていた
静寂
人の気配はあるのに、音がない
戦闘の疲れで、皆それぞれの部屋へ戻っている
廊下の照明も最低限
淡い光が、長く影を伸ばしていた
――その中で
一人だけ、外に出る影があった
コンタミ
足音はほとんどしない
静かに、基地の裏へと向かう
基地の裏
そこには小さな池がある
人工ではない
自然のままの水場
昼は何気ない場所
だが夜になると――
まるで別世界だった
水面には月が映る
揺れるたびに、月が砕ける
コンタミはその縁に座る
ゆっくりと手を伸ばす
指先が水に触れる
――波紋
小さな円が広がる
静かな、規則的な揺れ
それを見ていると
自然と、記憶が浮かび上がる
逃げられないように
引きずり出されるように
まだ、殲滅部隊に入る前
コンタミは小さな村に住んでいた
山と川に囲まれた、穏やかな場所
水は生活の中心だった
飲み水
畑
生活すべて
そして――
彼の力
水を操る能力
最初は、本当に小さなものだった
水面を揺らす
流れを少し変える
それだけ
でも、それで十分だった
村人たちは笑う
その笑顔は、本物だった
コンタミも笑った
自分の力が、誰かの役に立つ
それが嬉しかった
誇らしかった
“ここにいていい”
そう思えた
成長と共に、力は強くなった
水の量
速度
圧力
すべてが上がっていく
井戸の水を一瞬で汲み上げる
川の流れを変える
時には洪水を防ぐ
村にとっては、守り神のような存在だった
でも――
同時に
“人の領域ではない力”へと近づいていた
その日は、突然だった
モンスターが現れた
村の近く
逃げる時間はない
悲鳴
混乱
コンタミは前に出た
迷いはなかった
守るために
水を操る
今までで一番、大きな力を使う
ゴォォォッ――
川が逆流する
水が空へ舞い上がる
巨大な触手となる
モンスターを捕らえる
逃げられない
締め上げる
骨が軋む
肉が潰れる
そして――
叩きつける
ドォォォン!!
一撃
完全な一撃
モンスターは動かなくなった
静寂
そして――
歓声
拍手
安堵
涙
守れた
確かに、守れた
――だが
少しずつ、空気が変わる
誰かが、モンスターの残骸を見る
ほとんど“形がない”
押し潰されている
原型を留めていない
水の圧力
その威力
異常なほどの破壊
小さな声
賞賛にも聞こえる
でも
その奥にある感情は、違った
別の声
さらに小さい
でも、確かに聞こえた
コンタミの耳に
はっきりと
それから
何かが変わった
表面は同じ
村人は笑う
話す
感謝もする
でも――
ほんの少しだけ距離ができた
近づきすぎない
無意識の線引き
壁
目には見えない
でも確実に存在する
子どもたちも変わった
前は無邪気に近づいてきたのに
今は少し離れた場所で話す
笑いながら
悪気なく
ただ思ったことを言っているだけ
――だからこそ
刺さる
深く
静かに
コンタミは分かっていた
彼らは悪くない
強すぎる力は、恐れられる
それは自然なこと
むしろ普通だ
頭では理解している
でも――
心は、別だった
寂しい
ただ、それだけが残る
数年後
決断は早かった
このままここにいても
距離は埋まらない
むしろ広がるかもしれない
なら――
離れる方がいい
村人が聞く
コンタミは頷く
理由は、それだけじゃない
でも説明はしない
する必要もない
出発の日
村人たちは見送りに来た
笑顔だった
優しい言葉
本物の気持ち
それは分かる
でも
心の奥で、別の考えが浮かぶ
――これで安心する人もいる
その考えが
消えなかった
ずっと
ずっと残ったまま
水面が揺れる
月が歪む
戻る
また揺れる
コンタミは目を閉じる
今は違う
らっだぁたちは違う
距離を取らない
怖がらない
普通に接してくれる
それは、本当に分かっている
でも――
過去は消えない
あの視線
あの距離
あの言葉
全部、残っている
そして今日の戦闘
あの力
あの圧倒的な制圧
簡単すぎた
強すぎた
頭に浮かぶ
想像した瞬間
胸が締め付けられる
息が少し浅くなる
コンタミはゆっくりと口を開く
言葉が止まる
続けることができない
少しの沈黙
そして
かすれるような声で
答えはない
水は何も返さない
ただ揺れるだけ
月も同じ
何も語らない
夜は深い
そして静かだった
ストレス値
らっだぁ:34
みどり:32
金豚きょー:38
レウクラウド:44
コンタミ:63












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!