『……っ…ごめん。さよなら。』
「まて、だめだ、行くな。俺は……っ…」
彼の最後の言葉も聞かずに
白鳥沢学園__を後にした。
___________________。
私の名前は天宮あなた。
実家である天宮家は兵庫県にある天宮総合病院を
経営している。
元々は宮城の母方の実家で暮らしてたけど
〝とある事情〟で兵庫の父方の実家_
つまり天宮家に戻ってきたのだ。
はぁ…父さんに会いたくない。
学校だって転校してこっちの高校に通わなければならない。
でも、すべては全部私のせい。
実家に着くとインターホンを鳴らし、
『あなたです。只今帰りました。』
「…入りなさい。」
父さんの図太い声に一瞬恐怖を感じたものの、
怯まずなんとか中へ入る。
靴を脱ぎ、長い廊下を歩き父のいるリビングルームへ
向かう。
_宮城の母の家と比べると当たり前のように
だだっ広い。
「久しぶりだな。そこに座りなさい。」
『はい。』
「何故ここに戻ってくる事になったか、
わかっているね…?」
『はい、私が至らないばかりに申し訳ありませんでした。』
「私の〝優秀〟な一人娘が。
まさか本当に「恋愛事」で成績を落とすなんて
父さんびっくりだよ。」
〝本当に〟ってことはやっぱりわかってたんだ。
こうなる事が。
ははっ、と表情は笑ってはいるが目が笑ってない。
ああこれは〝ガチ怒〟だ。
そう、私は恋人を作る代わりに成績を落とさないと約束したのに、
それを破る結果を出してしまったのだ。
え?厳しすぎ?
天宮家ではこうなることは当たり前。
「母さんは優しすぎる。だから私はあの人とは
昔から合わなかったんだよ。」
じゃあ何故結婚したんだ。そうツッコミたい所だったけどどうやら2人は政略結婚というやつだったらしい。
『二度と……同じ結果は出しません。
父さんを_天宮家を継ぐ人間として恥じない行いをします。』
「出来て当たり前のことをしても褒めてあげられないよ。すべては〝結果〟だ。頑張りなさい。」
バタンッ
行ってしまった。
『はぁ…』
父さんが出ていった後、全身の力が一気に抜けた。
ごめんね__若利。
牛島若利。私が付き合っていた人_。
大好きだった…のに。
私のせいで。
せめて私よりもっといい家庭に生まれて、優しい子と幸せになってね、
っ……
考えれば考えるほど涙が止まらなくなる
もう恋なんてしない。
もう父さんを失望させない。
もう誰も傷つけない。
もう傷つきたくない___。
だから私は
〝誰も好きにならない。〟
そう強く決心した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。