もう、終電もない。
ホーム通っちゃったし…
ベンチに座っていたら
振り向くと慎くんが改札の前で手を振っている。
気づけば走ってて、改札の前でお互い立つ。
慎くんに言われるまま、改札を通る。
通った瞬間、慎くんの胸の中にいて
慎くんの優しい声。
暖かい体温をすぐ側で感じてる。
優しくしないでよ。
急に黙りだした。
けど、抱き締める力は強まる一方。
一生懸命背の高い腰を曲げてくれている。
優しい。
慎くんはゆっくりと離れていく。
それが嫌で、私はぎゅっと返した。
わぁ…私何してんだろ、
めちゃくちゃ恥ずかしい…/////
また、慎くんの力が強まって私を包んでくれる。
もう、迷惑かけらんないね。
離れると、顔を真っ赤にして頷く。
可愛いって…
馬鹿だぁ。
慎くんの…家?
平然な顔で応える。
慎くんって男だよね?
可愛い顔してまさか、女!?
慎くんの歩く後ろを歩く。
ここで週刊誌に撮られちゃ慎くん、いや、全体に悪影響。
ちゃんと察してくれたかな…
嫌で言ってるわけじゃないよ。
慎くんの足が止まる場所。
高層マンションの21階だって。
そーっと、着いてく。
顔で認識されるシステムのマンション。
芸能人にはぴったりなセキュリティ一。
静かに開くエレベーターのドア。
二人ではいるともちろん二人っきり。
心臓がバクバクして破裂しそう…
ああ、慎くんそっちを考えてたのね。笑
私、てっきり泊まることについてだと思ってた…
恥ずかしい…
慎くんの部屋の前に着いた。
さっきよりも心臓の速さを増す。
どうぞ、と入った玄関。
わぁ、広い。
恥ずかしがって手を鼻に持っていくところ好き。
覗いてやろう!とドアを開けたら
ずらぁぁぁぁぁっと、並んだ沢山の靴。
さすが、お洒落さん。
ひょいと覗いた慎くん。
可愛いなぁ、ほんと。
母性本能くすぐる。
リビングに案内される。
やっぱ芸能人の住む家は違うなあ、
遠くの東京都内を見渡せるまでの景色を前に
壱馬のことを真っ先に考えてしまうのは重症か。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!