舞台の下から実行委員の女子の声が響く。
眩しいスポットライトに目を細めながら、俺とあなたは実行委員の通り、ステージの端へと数歩移動した。
強い光に照らされているせいで、客席側は完全に真っ黒に見える。
だけどそこからライやサラ、大道具の奴らの「おい、始まるぞ」という無言の視線が突き刺さっていることだけは、肌に痛いほど伝わってきた。
メガホンの声が、容赦なく最後の仕上げを要求してくる。
ポーズだけ、と言い聞かせてはいるものの、俺の右腕は完全に鉄の棒みたいにカチコチに固まっていた。
あなたの声に、弾かれたように首を動かす。
ライトを浴びたあなたの髪が、いつもより少しキラキラして見えた。
彼女は台本を左手に持ち替え、空いた右手をそっと俺の前に差し出してくる。
喉の奥がカラカラだった。
俺は意を決して、自分の右手をゆっくりと前に出す
__触れる、その瞬間、
あなたのほうが少しだけ指を動かして、俺の指をそっと包み込んできた。
それが、最初の感想だった。
秋の体育館の空気のせいか、それともあなた自身も本当は緊張しているからなのか、彼女の指先は驚くほど冷えていた。
だけど、その冷たさの先にある柔らかさが、手のひらを通じてダイレクトに俺の脳内に流れ込んでくる
ドクン、と心臓が大きな音を立てた。
自分の体温が一気に跳ね上がり、あなたの冷たい手を俺の熱がじんわりと侵食していくのが分かって、猛烈に恥ずかしくなる。
下の声と同時に、ステージのライトがパッと消え、体育館に元の薄暗い蛍光灯の光が戻ってきた。
あなたはパッと手を離すと、自分の胸に小さく手を当てて息を吐いた。
離れた瞬間、俺の右手が妙に寂しくて、置き所に困ったように制服のズボンのポケットに突っ込む。
あなたが不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる。
無自覚。本当に、この女子はどこまで無自覚なのか
なんて、
言い返せるわけもなく、俺は精一杯のポーカーフェイスを作ってそっぽを向いた。
足早にステージの階段を降りる俺の耳に、客席の暗闇からライの「ヒューヒュー」という、これ以上ないくらい腹立つ口笛が聞こえてきた。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。