ひやしんすさんは事務所の机に突っ伏して頭を抱えていた。無理もない。自分が操られたと知って動揺しない者はいないだろう。
葵さんはそのそばでおろおろしていた。
私は葵さんをひやしんすさんから引き離し、事務所の二階の物置に連れて行って扉を閉めた。
その時階下から電話のベルが聞こえてきた。慌てて階段を駆け下りるとひやしんすさんは机に突っ伏したまま、受話器を取ろうともしなかった。
私は独り言を装い皮肉を言ったが、ひやしんすさんが動く気配はなかった。
私は仕方なく受話器を取った。
興奮しているのか、甲高い声に私は慌てて受話器から耳を離した。
数秒間の無言のあと、綺羅さんは再びしゃべりだした。
言いたいことだけ言って満足したのか、電話はそこで切れた。私はひやしんすさんの後ろに立った。
私はひやしんすさんの肩を揺さぶり、ついで向こう脛を蹴った。しかし、ひやしんすさんが動く気配はなく、いらいらした私はついにひやしんすさんの襟首をつかみ、思い切りひっぱった。
ひやしんすさんはやっと立ち上がり、服装を整えて外に出た。
階下の騒がしさに扉から半分ほど顔を出した葵さんが、嬉しそうに降りてきた。
葵さんは自信満々に胸を張った。
何か違うような気がするが、まあいいだろう。
私たちは綺羅邸を目指して事務所を出た。


















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。