第37話

仙妖古文書の怪 Ⅵ
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2025/10/14 09:00 更新
ひやしんすさんは事務所の机に突っ伏して頭を抱えていた。無理もない。自分が操られたと知って動揺しない者はいないだろう。
葵さんはそのそばでおろおろしていた。
私は葵さんをひやしんすさんから引き離し、事務所の二階の物置に連れて行って扉を閉めた。
千歳
千歳
葵さん葵さん
葵
急にこんなことするなんて…どうかされましたか?
千歳
千歳
どうしたらひやしんす元気取り戻すのでしょうか
葵
さあ…いつも元気をなくされた時は取り戻すのに時間がかかりましたからねえ…それに今回は負った傷も深い。さらに時間がかかるでしょう
千歳
千歳
そんな…!一刻も早く元気を取り戻してくれないと、今度は何が起こるかわからないのに…!
葵
…確かにそうでございますが…
その時階下から電話のベルが聞こえてきた。慌てて階段を駆け下りるとひやしんすさんは机に突っ伏したまま、受話器を取ろうともしなかった。
千歳
千歳
もぅ…困りますよ、こんな緊急事態なのに
私は独り言を装い皮肉を言ったが、ひやしんすさんが動く気配はなかった。
私は仕方なく受話器を取った。
千歳
千歳
はい、もしもし
綺羅
綺羅
「もしもし!ひやしんすいる?」
興奮しているのか、甲高い声に私は慌てて受話器から耳を離した。
千歳
千歳
はい…いますけど、元気無くて…
綺羅
綺羅
「あらまあ…ま、いつものことだし気にしないであげて」
千歳
千歳
そうですか…
綺羅
綺羅
「それより!封印に成功したのよ」
千歳
千歳
えっ!?本当ですか!?
綺羅
綺羅
「私が嘘つくわけないじゃない」
数秒間の無言のあと、綺羅さんは再びしゃべりだした。
綺羅
綺羅
「それで、来てほしいんだけど…」
千歳
千歳
来てほしいって…なんのために?
綺羅
綺羅
「来てほしい理由?ひやしんす、動く理由がなきゃ永遠にあのままよ?」
千歳
千歳
あ、はい。分かりました。すぐ、行きますね
言いたいことだけ言って満足したのか、電話はそこで切れた。私はひやしんすさんの後ろに立った。
千歳
千歳
ほら!行きますよ…!
私はひやしんすさんの肩を揺さぶり、ついで向こう脛を蹴った。しかし、ひやしんすさんが動く気配はなく、いらいらした私はついにひやしんすさんの襟首をつかみ、思い切りひっぱった。
ひやしんす
ひやしんす
千歳!苦しい…!
千歳
千歳
苦しいならさっさと動いてください!
ひやしんすさんはやっと立ち上がり、服装を整えて外に出た。
葵
あっ!ご主人様、元気になったのでございますね!
階下の騒がしさに扉から半分ほど顔を出した葵さんが、嬉しそうに降りてきた。
千歳
千歳
ええ…まあ、そうですね
ひやしんす
ひやしんす
ほとんど力技だったけどね…
千歳
千歳
それは電話が鳴っても動かないほうが悪いんです!
葵
千歳さん、ありがとうございます。これで一つ、勉強になりました。「ご主人様が梃子てこでも動こうとしない時は、力技が有効である」とね!
葵さんは自信満々に胸を張った。
何か違うような気がするが、まあいいだろう。
私たちは綺羅邸を目指して事務所を出た。

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