第12話

手と手
447
2024/11/11 14:23 更新
私は駐輪所に向かって歩いていた。

途中、陸上部が練習しているグラウンドを通る。
ふと足を止めて、練習風景を眺めた。

そして、そっと目を閉じた…。



いつも、追い風が私を見方してくれた。

ふわっと風に背中を押されて、私は走り出す。

目線より高いバーを越えるときに見える空を…

高い、高い空を見るために私は飛ぶ。


それが私の世界だった。
跳躍した時に自分に羽が生えたような不思議な感覚。
鳥になれたような…そんな気分だった。
心地良かった。


私はそっと目を開けた。
あなた
私は…新しい世界に飛び込むよ…。
…今まで飛ばせてくれて…ありがとう。
直井コーチ
おーい!!黒尾!!
黒尾
はいっ!!
直井コーチ
ちょっとこっち来い!話がある!
俺は練習中にコーチに体育館の外に呼び出された。
珍しいな…俺なんかやらかしたか??
直井コーチ
さっきバレー部に入部希望届を出しに来た生徒がいてな。
黒尾
え……。
そう言ってコーチはその入部希望届を俺に見せた。
そこに書かれていたのは…


入部希望届
3年5組
あなたの名字あなたの下の名前
志望理由
マネージャーとして全国に行くチームを支える為。


直井コーチ
いやーマネージャー希望の子なんて初めてで驚いたわ!…っておい!!お前どこ行くんだ!!
黒尾
すんません!!すぐ戻りますんで!!
俺はあなたの名字の入部希望届を握りしめ全力で走った。
今、どこにいる?!教室か?!図書室か?!いや、もう帰る頃か?!
とりあえずまだ校内にいればいい!!

駐輪所にあいつのチャリがあればまだ帰ってない!!

咄嗟にそう考え駐輪所に向かって走った。
黒尾
ゼェゼェ……居た…。
陸上部のグラウンドから少し離れたところにあなたの名字の姿を見つけた。

真っ直ぐ前を向いて陸上部の練習を見ていた。

その顔はどこか寂しげだったが、清々しさも感じた。
黒尾
あなたの名字!!!!
あなた
え…く、黒尾くん?!
ど、どうしたの?!
黒尾
お前さぁ…やり方がずりぃんだよ…。
俺は自分が握りしめたせいでクシャっとなったあなたの名字の入部希望届を見せた。
黒尾
出す前に俺に言えよな、まったく…。
マジでビビったぞ。
あなた
ご、ごめんなさい…!
そうだよね…えへへ、順番間違えちゃった…。
お、怒ってる…??
俺は息を整えながら…
黒尾
んな訳ねぇだろ…
すっっっげぇ嬉しいに決まってんだろ!!!!
あなた
黒尾くん…。
ありがとう!!

あの…こんな土壇場で言うことじゃないけど、今、改めて言うね。

私は黒尾くんたちの側で、黒尾くんたちが全国に行くために、私は微力でも支えになりたい。
バレーボールを教えてくれた黒尾くんに感謝してるの!
何も無くなった私に新しい世界を見せてくれた!バレーボールの楽しさを教えてくれた!もう迷いはない。

私は音駒高校バレー部のマネージャーになりたいです!!
あぁ、お前ってほんとに真っ直ぐないい目をするんだな。
この時を待ってたよ、ホントに…。

俺はスっと手を差し出した。
黒尾
これから忙しくなるぞ!覚悟しとけよ?ニヤ
よろしくな、マネージャー!!
あなた
……はい!!
よろしくお願いします!!
あなたの名字も手を差し出し、俺らは握手をした。
小さくて強く握ってしまったら壊れちまいそうなあなたの名字の手。

これからずっと側に居ろ…。
俺たちの側に…。


そして…


俺の側に…。

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