第24話

第二十四話
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2024/09/21 11:10 更新


目を覚ますと、そこは病院だった。
泣きじゃくる母親と、
「よかった」としきりに繰り返す父親。

それは漫画の世界で一緒に暮らしていた
似ている両親ではなく、間違いなく俺の実の両親。


聞けば、やはり俺はあの日のトラックにはねられていた。
幸い軽傷だったものの、
頭を強く打って一週間昏睡状態だったらしい。

あの世界で過ごした日々は、
転生ではなくただの夢だったのかもしれない。
そう思うほど、現実世界では何も変わりがなかった。
黒月 想
黒月 想
(……リアルな夢だったな)
様々な検査を終えてベッドに横になった俺は、
改めてあの世界のことを思い返していた。



全部はっきり覚えてる。



目の前で推したちが話していたことも、
目の前で繰り広げられた漫画さながらの展開も。
そして、折原のことも。

そこまで考えた俺は、
点滴につながれている腕を持ち上げて
自分の手のひらを見た。

物語を壊そうとした折原の腕を掴んで
何度も止めた。
その感触を、俺は覚えてる。

子どもの様に泣く折原を抱きしめた感触も、
確かに覚えてる。
黒月 想
黒月 想
(……あいつは何だったんだろう?)
黒月 想
黒月 想
(本屋から逃げようとした俺を
止めたって言ってたけど……。
夢ならそれも嘘かな)
『ナチュラルデイズ』を知らないなんて言ってたけど、
あいつは絶対に知ってた。
知ってて壊そうとしていた。
黒月 想
黒月 想
(……最後に言ってた
『この物語は俺だけのものじゃない』って、
なんだったんだろう)
俺と同じで、
『ナチュラルデイズ』のファンだったのかな。
だって、俺も思ったことがある。
『ナチュラルデイズ』は俺だけのものだって。


WEBで連載されている『ナチュラルデイズ』は
一定の人気がある。
だけど、周りで好きだと言っている人を見たことがない。

だから、俺だけの物語だって思ってた。
俺のための、物語だって。
黒月 想
黒月 想
(……もう一人の俺、だったりして)
なんて、それこそ夢物語のようなことを
考えてしまう。

夢だったとしても、
あの世界で過ごした時間は確かに俺の中にある。
だからもう、大丈夫。






久しぶりに登校した学校に、
俺をいじめてくるクラスメイトたちの姿はなかった。
事故の状況調査でいじめが発覚して、
あの三人は停学処分を食らっているらしい。


男子1
く、黒月、おはよ
クラスメイトが話しかけてくる。
もしかしたら
いじめを黙認していたことに対して、
学校から指導があったのかもしれない。
黒月 想
黒月 想
(黙認してる時点で
いじめっ子と同じ、って
あいつは言ってたっけ)
だけど、三葉なら。真斗なら。
どうするだろう。
黒月 想
黒月 想
……おはよ。
ねぇ、俺が休んでた分のノート、
見せてもらってもいい?
俺がそう答えたことに、
話しかけてきたクラスメイトは目を丸くした。

そうだよな。
このクラスで俺が自発的に何かを話したことなんて、
ほとんどなかったから。
男子1
も、もちろん!
プリントもあるよ
黒月 想
黒月 想
え、ほんと?
助かる。ありがとう
男子1
ううん。
もう身体は大丈夫なの?
黒月 想
黒月 想
うん。もう元気
男子1
そっか。良かった
男子1
あ、そうだ。
演習ワークもあるんだ。
複数教科あるし……。
後で進んだ範囲まとめたメモ渡すね
黒月 想
黒月 想
(なんだ、意外といい奴じゃん)
俺をはねたトラックは飲酒運転だった。
てっきり俺がトラックの前に飛び出した気でいたけど、
トラックの方が歩道に乗り上げていたらしい。
幸い……でもないけど、
俺が事故に巻き込んだわけじゃなくてホッとした。

あ、巻き込まれた人がほかにもいなかったか
一応確認すればよかった。
とはいえ、両親も何も言ってなかったし、
怪我したのは俺だけだったんだろう。


あの幸せで不思議な夢を
誰とも共有できないのは少しだけ寂しいけど……。
もしかしたらまた、
夢で会えるかもしれない。

そしたら、折原ともっと話してみたいな。











────────────



うるさすぎないざわめきに胸を高鳴らせながら、
俺はとある本屋にいた。

事故から目を覚ました後も、
変わらず連載が続いていた『ナチュラルデイズ』。
以前よりもさらに心理描写が丁寧に描かれるようになり、
話の面白さも増す一方だ。

そして、ついに単行本化が決定した。
今日はその第一巻発売を記念して開催される
「花織ルラ」先生のサイン会なのだ。
黒月 想
黒月 想
(ついに……『ナチュラルデイズ』に
お金を落とせる日がくるなんて……!)
嬉しすぎて本当に
読む用・飾る用・保管用で三冊買ってしまった。
そして、今日のサイン本で四冊目だ。
幸せ過ぎる……。
にやける顔を隠しもせずに列に並んでいると、
すでにサインをもらったファンが
何人も横を通り過ぎていく。
花織先生って男の人だったんだね!
ね! イケメンだった!
興奮した女の子たちのその言葉を聞いた俺は、
思わず振り返る。
黒月 想
黒月 想
(え゛、花織先生男なのか!?
勝手に女の人だと思ってた……。
あんな繊細な描写が出来るなんて、
優しいお兄さんって感じの人なんかな)
そうこうしているうちに近付いてくる、俺の番。
あと四人、三人、二人、……。
黒月 想
黒月 想
…………え?
やっと次だ、というところで、
花織先生の顔が見えた。
俺の前の人に優しく笑いかけている、イケメン。
丁寧にサインした本を渡し、
しっかりファンの目を見てお礼を言ったそのイケメンが、
こちらを見る。




黒月 想
黒月 想
……おり、はら?



折原成
折原成
よう。来てくれると思ってたぜ



嬉しそうに笑うその男は、
間違いなく折原成本人だった。

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